元経済ヤクザが読み解く「中国を落としたアメリカが狙う次の標的」

世界が再編されつつあるなかで
猫組長(菅原潮) プロフィール

中国を対称性の戦場に引きずり出せ

さて、次に、多くの中国企業の中でなぜファーウェイが狙い撃ちされたのかを、私なりに分析してみた。

ファーウェイについては、今年8月13日に中国通信機器の大手ZTE(中興通訊)と共に、中国情報機関と関連があるとして、アメリカの政府機関での製品の使用を禁止する国防権限法が成立している。しかし、孟氏の容疑はこれに関連するものではなく、詐欺罪だ。アメリカはイラクに制裁措置を取っているが、ファーウェイの子会社「スカイコム」が取引を行った。孟氏は、この違反取引にあたって、アメリカの金融機関に虚偽の事実を告げたとアメリカ側は主張している。

 

一方で、今年、アメリカ政府が中国共産党によるスパイ活動対策に本腰を入れたことは、相次ぐ逮捕、起訴でも明らかだ。複数の海外メディアの報道をまとめると以下のようになる。

・1月に、FBIがCIA元職員の李振成氏を逮捕、起訴。
・6月にはFBIが元米国防情報局のアメリカ人を逮捕。
・9月には、司法省が留学ビザで入国した紀超群氏を逮捕。
・10月には、中国の情報機関の幹部である徐彦君氏をベルギーにおびき出し後、逮捕し身柄を移送。同月には中国情報機関・国家安全省の幹部とハッカー10人を訴追している。

背景は、中国の対米戦略が「非対称性」を武器にしていることがある。説明しよう。

米国家通商会議委員長、ピーター・ナヴァロ氏は著書『Crouching Tiger』(邦題『米中もし戦わば』文藝春秋)で、中国の軍拡が「非対称兵器」開発に向かって進んでいることを指摘している。それは<それらが破壊しようとしている対称に比べて非常に安価な兵器>のことだ。

米国家通商会議委員長・ピーター・ナヴァロ氏/Photo by Gettyimages

建造費1兆1千200億円のアメリカの空母に対して、中国は1発5億円ほどの対艦弾道ミサイル「空母キラー」を開発して対抗している。この「非対称」の構図はただ軍事面だけではなく、経済でも機能している。

自動車、半導体からトイレットペーパーまで、人件費が安く、環境問題などおかまいなしの中国製品の製造原価は、アメリカに比べて非対称となる。世界の生産工場となったことで、開発ノウハウや設計図は手に入り放題となった。追い付かない技術については開発費にコストをかけるより、盗めば非対称の勝負ができるということで、スパイ行為は後を絶たない。

冷戦構造化でソ連は、アメリカの軍事力と対称で張り合ったため、予算の多くを軍事費に投下した。とどめを刺したのはレーガン政権下で提案された、莫大な軍事費を投下する「スターウォーズ計画」につられ、ソ連は崩壊した。現在のトランプ政権にはレーガン時代のスタッフが多くいる。アメリカが中国との対立を「冷戦と同じ対称の図式にしたい」と考えていることは、合理的に導き出せるだろう。

一連の偏執的ともいえるスパイ逮捕も、窃盗という手段によって「非対称」化を阻止するための、アメリカの防衛策だ(繰り返すが、いちから新技術を開発するよりも、当然、情報を盗んだ方がコストは格段に低くなる)。11月1日には米司法省が、中国の経済スパイの監視を強化する「チャイナ・イニシアチブ」を発表したことからも、アメリカの本気度は理解できるだろう。

その中国は、2015年、10年計画「中国製造2025」を発表する。2049年の建国100周年までに世界一の技術・生産大国になるための第一歩となる国家プロジェクトだ。オバマ政権時代には指を咥えているだけだったが、トランプ政権はこれを千載一遇のチャンスと捉えた。一番になるためには、盗むだけではなく対称の場所に立たなければならない。中国は自ら、技術・生産の分野では「対称」を獲ることに戦略を切り替えたのだ。