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元経済ヤクザが読み解く「中国を落としたアメリカが狙う次の標的」

世界が再編されつつあるなかで

中国への「絶縁状」

今年の漢字は「災」に決まったが、世界情勢を一言で表すなら「乱」だ。「一石多鳥」を狙う超大国の国家戦略を読み取るためには、並列して起きた事実の関連性を精査することが必要だ。ファーウェイCFOの逮捕から、元経済ヤクザの私が導き出したのは、アメリカを中心にした新連合国と、中国を中心にした新枢軸国へと世界は再編されつつある、ということだ。

12月1日、アメリカ当局の要請によって、カナダで中国の大手通信機器メーカー、ファーウェイの副会長兼CFO(最高財務責任者)、孟晩舟氏(46)が逮捕された。ここに至る、米中両国の動きから整理しよう。

孟晩舟氏/Photo by Gettyimages

逮捕直前には、ブエノスアイレスでドナルド・トランプ氏(72)と習近平氏(65)との間で米中首脳会談が行われ、対中製品への追加関税を90日留保することが決まっていた。このことで、「米中貿易戦争は一時停戦」と見る向きが多いが、はたしてそうだろうか。

 

会談でトランプ氏が習氏に要求したのは、強制的技術移転、知的財産権の保護、非関税障壁、サイバー攻撃、サービス・農業の5分野の構造的改革だ。両国間は5分野について交渉し、合意に達しない場合、アメリカは追加関税の引き上げを実行する。民間企業でさえ5つの分野を「今すぐ改める」と決断することは難しいのだから、いくら中国とはいえ大国の意思決定をたった90日で行えるはずがない。

「90日留保」は一時停戦どころか、アメリカ側が到底達成不可能な要求を中国に突き付けたパワハラという見方が正しいだろう。

その上で、今回の逮捕がアメリカの対中戦略の一環であることも疑いようがない。アメリカではなく、カナダ当局が逮捕したことが、その根拠の一つだ。

この前日の11月30日、同じブエノスアイレスでアメリカとカナダ、メキシコは、NAFTA(北米自由貿易協定)を改定した新協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に調印している。中国とのFTA(自由貿易協定)締結を模索していたカナダは、USMCAの締結に難色を示していた。というのも、USMCAが非市場経済の国とのFTAを事実上禁止しているからだ。アメリカ商務長官のウィルバー・ロス氏はこれを「毒薬条項」と呼んでいるが、「非市場経済の国」が中国を指していることは言うまでもない。

つまりアメリカ自身も中国とFTAを結ぶ気はないということだ。USMCAは今後アメリカとのFTA条約のひな型になる。締結を予定されているイギリスも、日本も中国とのFTAは不可能になったということでもある。

24時間、地球上の核ミサイルや、戦略爆撃機などの動向を監視している「NORAD」(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)は、アメリカとカナダの共同運営だ。両国は軍事同盟を結んでいるが、カナダがアメリカに反旗を翻すことは核防衛の点からも不可能といえる。「親が言ったら白いものも黒になる」とはヤクザの盃の口上だが、米国の要請による逮捕は、カナダから中国への絶縁状に他ならない。

孟氏の逮捕後、中国当局はカナダの元外交官や企業経営者を相次いで拘束している。もし、中国当局が米国人を逮捕すれば、アメリカ側は孟氏を本国に移送するカードを切ることができる。さらに米国人逮捕が相次げば、孟氏を起訴するカードもある。突然米中の代理戦争の表舞台に引きずり出されたカナダには気の毒だが、「90日ルール」を突き付けたアメリカにとって、最良のタイミングの逮捕だったと言えるだろう。