「いずも空母化」は自衛隊の要望ではなく実は「自民党主導」だった

ついに「政治主導」の防衛政策が前面へ
半田 滋 プロフィール

「空母」を「護衛艦」に言い換え

ここで、改めて大綱策定の手順をみてみよう。

これまでに5回閣議決定された大綱は、いずれも防衛省もしくは防衛庁で原案を策定してきた。しかし、安倍内閣で2013年12月、首相、官房長官、外務相、防衛相の四大臣会合を中心とする国家安全保障会議が設置され、今回の大綱はこの国家安全保障会議と、その事務方にあたる国家安全保障局が策定している。

国家安全保障局には防衛省からの出向者も含まれる。しかし、これまで大綱策定の中心だった防衛官僚や自衛隊制服組は、意見を述べるだけの傍流に追いやられた。

 

一方で、自民党国防部会は毎回、大綱改定に合わせて提言をまとめてきたが、防衛省が策定する大綱原案にはほとんど反映されることなく、無視されてきた。

例えば、13年12月に閣議決定された現大綱に合わせて同年6月にまとめた自民党提言には「憲法改正と『国防軍』の設置」「国家安全保障基本法の制定」「国防の基本方針の見直し」などが勇ましく打ち出されたが、現大綱には反映されていない。

もし、安倍首相が政権基盤を固め切らない13年時点で「憲法改正と『国防軍』の設置」を大綱に取り込んだとすれば、国会で野党から追及され、防衛省はもちろん安倍首相自身も火ダルマになったことだろう。

だが、首相就任から6年近くが経過し、この間、強硬策を押し通して「安倍一強」と党内外で恐れられるようになった今回は違う。

先の議員は「自民党提言がほとんど大綱に反映された」といい、「自分でもちょっと驚いている」と率直に話した。

安全保障の専門家集団である防衛省が後景に退き、安倍首相の威光をバックにした首相官邸が前面に立って、政治主導を確立させた――。

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その意味ではまさに「シビリアン・コントロールの実現」といえるが、残念ながら「シビリアン・コントロール=専守防衛の維持」にはつながりそうもない。それは次期大綱に空母のほか、長射程のスタンド・オフ・ミサイルなど「敵基地攻撃」を可能とする攻撃的な兵器体系の整備が盛り込まれたことから、明らかだ。

大綱提言をまとめるより前の今年3月、自民党国防部会は大綱提言の「骨子」をまとめた。この骨子には「多用途防衛型空母」という呼び名で空母保有が明記されていた。

前出の議員は「『多用途防衛型空母』は世論の動向を探る観測気球だった。『空母』と書いてあるのに、野党もマスコミも拍子抜けするほど無反応だった。これはいけると思った」と明かす。

最終的に、大綱提言では「多用途運用母艦」として「空母」の部分を「母艦」とぼかしたうえ、さらに公明党との与党間協議を経て「多用途運用護衛艦」と、ますます「空母」の印象を弱める呼び名に落ち着いた。

「空母」を「護衛艦」と呼び換えるのは、「敗走」を「転進」と呼び、「全滅」を「玉砕」と言い換えて物事の本質をごまかした旧日本軍と同じではないのか。日本の安全保障政策が内外からの信用を失いかねない、ゆゆしき事態ではないだろうか。