ケンズカフェ創業期の私は、店を開け、アルバイトに仕事の指示を出し、いつお客様が来てもいいように料理の仕込みをし、食器を整え、清掃し、ときにアルバイトに接客マナーを教え込むという毎日を送り、本当に忙しく働いていました。
ところが、万全な体制を整えても、お客様は来ない……。
つまり、これらの仕事はすべて結果として、「余計なこと」だったのです! 本来であれば、私はその時間を使って、このまま店を開け続けるべきなのか、ほかに方策はないのかを徹底的に考えるべきでした。
その後、私はようやく余計なことに時間を費やしていることに気づき、夜間は宴会以外の営業をやめました。
あんな状況で5年も営業不振にあえいでいたのは、私が儲かりもしないディナー営業を続けていたからにほかなりません。当時の私は頭を使わず、余計なことと気づかず、忙しさの中に迷い込んでいたのです。
とはいえ、飲食店がその根幹であるディナー営業をやめたのですから極端な事例と思われるかもしれません。
でも、ぜひお伝えしたいのは、そういう当たり前のことこそ見直してほしいということ。その業界のいわゆる常識をなんの疑問もなく受け入れてしまっていることにこそ、「余計なこと」は潜んでいるものなのです。
あの頃私は倒産の危機に怯えながらもディナー営業をやめる、という選択肢を思いつきすらしませんでした。なぜなら、それが当たり前だから。飲食店がディナー営業をやらないなんて常識では考えられないから。
私の場合は、とうとう行き詰まってしまい、ようやくこの「当たり前」の呪縛が解けましたが、おかげで立ち直るまでにはずいぶん時間がかかってしまいました。
ですから、まず真っ先に言いたいことは、「本当にあなたが必死で取り組んでいるその商売にやる意味はありますか?」ということです。
惰性や成り行き、単なる思い込みでやっていることに気づいたら、それは「余計なこと」である可能性が非常に高いです。「やめるとどうなるか?」という選択肢を持ちつつ一度見つめ直してみることをお勧めしたいのです。
2014年、宴会部門をやめたときも大きな決断でしたが、予想以上に時間的な余裕が生まれたことに驚きました。
宴会にかけていた時間がなくなったことで、私はガトーショコラにビジネス脳を全集中できるようになりました。持っていた荷物をすべて手放し、両手がまったくのフリーハンドになった状態です。
視界が一気に開け、自分がこれから何をやるべきか、どこに向かうべきか、道筋が見えました。
「最高のガトーショコラを提供することと、高水準の利益を上げることの両立。それがビジネスマンとしての私の役割だ。そして、戦略の核となるのはプロモーションだ」
このときに、そう確信することができたのです。
いま思えば、レストランを営んでいた私が、唯一残していた宴会までもやめたことが、本当の意味でビジネスを加速させるベースになったと思います。