労働の本質を問う名著『働くということ』が時代を超えて愛される理由

コミック化の漫画家・池田邦彦氏に聞く

1982年に刊行された書籍『働くということ -実社会との出会い-』(講談社現代新書刊)は、35年以上売れ続けている超ロングセラーだ。

本書は、芥川賞選考委員、日本文芸家協会理事長などを歴任した小説家・黒井千次が、1955年から1970年にかけて自動車メーカーに勤めた体験を踏まえて、働くことの意味と意識を真摯に考察した、自伝的な物語である。

発表当時とは世相も、働き方も大きく変化したにもかかわらず、本書が今もなお人々の心を捉え続けているのはなぜか――。現代ビジネス、コミックDAYSにてコミック版『働くということ』を連載中(毎週木曜更新)の、国鉄時代の客扱い専務車掌の実像を活写した『カレチ』などの代表作がある漫画家・池田邦彦に話を聞いた。

 

労働の本質は不変である

──『働くということ』の舞台は昭和中期の日本で、現代とは時代背景が大きく異なります。平成の御代が終わろうとしている今に至っても本書が売れ続けているのには、どういった理由があると考えられますか。

池田 ソロバンがパーソナル・コンピューターにとって代わろうとも、「働くということとは?」ということの本質は変わっていないことと、その本質がなかなか捉えられないということは、時代背景が異なっても変わらないからだと思います。

労働の本質が捉えられない原因となる部分は大きく変わっていますが、それは労働の本質の表層的なものです。実際の仕事の内側に我が身をくぐらせることで、ようやく「働くということ」が見えてくるという構造は、変わらないんだろうと思うんです。

黒井先生が実際にサラリーマン生活をされていたのは50年くらい前なのですが、現代人にも通じる内容となっているのは、そういう理由があるのだと思います

──働くこととは何かを問う類書は多々ありますが、そんな中でも本書が優れているのは、どういった部分だと感じましたか。

池田 語り口はすごく優しいんですけれども、核となる部分では読者に媚びず、労働者が置かれる厳しい現実について、赤裸々に書いているところです。耳障りのいいことを並べたりしていないんですよね。

本書のまえがきに「これは理論の書ではなく、むしろ労働をめぐる一種の手記であり、ノートに近いものとぼくは考えている」とあるのですが、サラリーマン生活をする中で思ったことをそのままぶつけてきているという、その本気度、リアルさゆえに真に読者の心に響くのだと感じました。

コミック版を担当した漫画家の池田邦彦氏

──コミック化にあたり、取り上げてみたいと思った言葉やエピソードをご紹介ください。

池田 「求めて得られないのと、求めずに得られないのとではなにかが違う」(コミック版では9話)という言葉です。

自分にとって働くということはどういうことで、自分の職業はなんなのか?ということを求め続けろ。それで得られるのが失望でしかなくても、でもそれがキミのためになるのだ、ということが書かれているんですけど、これにはちょっとガーン!と衝撃を受けました。おぼろげには思ってることをこうやってはっきり言ってもらうと、すごく気持ちがいいです。

「人間の自由は不自由を避けたところに生ずるのではない。不自由の真只中をくぐり抜け、その向う側に突き抜けた時にはじめて手にすることが出来る」(コミック版では10話)という言葉も、非常に心に残りましたね。

本当にお金があって、遊び呆けていればそれは自由なのか?というのは、誰でも思うことだと思うんです。自由を手に入れた人の人生は、ある意味充実した人生と言うことになるんでしょうけども、でもそうなるためにはどうすればいいのか、どういう心構えでいるべきなのか、ということが非常にわかりやすく書かれています。

「大学入試を卒業して実社会に出て行く者は、その時にはじめて働く親の姿に出会う次第となる」(コミック版では1話)という言葉もお気に入りです。

昔のように、商店と住宅が一緒という自営業の親を持つ若い方は、今ではむしろ珍しい存在です。学校に出て会社勤めをして、「あぁそうか、俺の親はこうやって働いているんだな」と皆さん思うことだろうなと思うんですよね。改めて、こう言われるとジーンと来ます。