「中華人民共和国地図集」より

なぜ中国の地図には「国境線」が書かれていない場所があるのか

日中の最前線「琉球弧」の島々をゆく

島々を抜けると、長江の濁流が…

筆者は、日本の生物相の成り立ちを探るため、30年間あまりにわたって日本と中国を行き来しています。

最近は格安のLCC便を使うことが多いのですが、以前よく利用していたのが、大阪・神戸と上海を結ぶフェリー「新鑑真号」です。

飛行機で一気に移動するのではなく、何日もかけて海を渡ることで、日本列島と中国大陸の距離を感じ取りたかったからですが、もう一つ別の目的がありました。

新鑑真号は、毎火曜日の朝、大阪・神戸(週ごとに入れ替わる)を出港、3日後の朝に上海に入港します。2日目の朝には、九州と種子島・屋久島の間を通りぬけます(現在は瀬戸内海航路に変更された)。屋久島は少し遠くて見えないことも多いのですが、その手前にある三島列島を間近に眺めることができます。

お昼頃、さらにその西に位置する2つの無人島・宇治群島と草垣諸島の間をすり抜けます。これらの島々を間近に眺める機会は滅多にないので、それが目的の一つでもあるのです。

両諸島の間を通り抜けると、あとは翌朝上海に入港するまで、陸地は一切見えず、東シナ海の海原が続きます。

ある時、こんな経験をしました。出航して2日目の午後、デッキに出てみたら、海の色がそれまでの深い藍色から黄土色に変わっています。さっき、2つの島嶼を過ぎたばかりなのに、もう長江の濁流が、大陸棚の上を滑るように流れ込んできているのです。

 

大陸に最も近い無人島たち

琉球弧(南西諸島)は、九州から台湾に連なる「南北」の区分とは別に、太平洋と東シナ海に挟まれた「東西」の区分もできます。大ざっぱに見れば、太平洋側には主軸となる大型の島々(琉球弧外帯)があり、東シナ海側には、火山島を含むやや小型の島々(琉球弧内帯)が連なっています。

琉球トラフを挟んで中国大陸から張り出す大陸棚に面した内帯の島々は、あまり一般には知られていないようですが、無人島の宝庫です。

たとえば、黒島の南90kmに位置するトカラ列島口之島の屋久島寄りには、灯台の建つ「平瀬」という島があります。この島は日本にとってかなり重要な場所にあり、この島が存在することで、日本の領海や排他的経済水域がより南まで繋がる可能性があります。また、同・中之島の西方の「小臥蛇島」と「臥蛇島」は、数十年前まで人が住んでいました。

トカラ列島南端の「横当島」は規模の大きな島で、筆者は奄美大島名瀬港からの釣り船に便乗し、調査のため上陸して、一人で夜を過ごしたことがあります。

この島でも以前は人が活動していたらしく、朽ち果てた小屋や、ブルドーザーが通った道跡が残っています。次の船が来るまで無人島で夜を過ごす…そのようなシュチュエーションで何と言っても不気味なのは、「誰もいない島のはずなのに、突然人が現れる」ことでしょう。幸い、そのようなことはありませんでしたが、近年は得体の知れない船が近海をうろついていることを思えば、あり得ないことではないような気がします。

トカラ列島の南の延長線上には「硫黄鳥島」があります。これは奄美諸島の徳之島の真西に位置しますが、行政上は4つの別の行政の島々を挟んで200kmあまり南に役場が位置する、沖縄県久米島町に所属しています。

久米島町は2つの「鳥島」を持っていて、もう一つは久米島の北30km弱に浮かぶ「久米鳥島」です。この久米鳥島には、米軍の射爆撃場があります。

久米島周辺の米軍射撃基地といえば、反対側の沖縄本島寄りの渡名喜村の入砂島(出砂島)が有名で、久米鳥島のほうは一般の人々にはあまり知られていないように思われます。

久米鳥島の航空写真(国土交通省)

硫黄鳥島や久米鳥島は、南の尖閣列島や、北のトカラ列島、三島列島などとともに、南西諸島の中で、最も大陸棚寄りに位置する(尖閣列島は大陸棚上)島です。これらの島々の西方のどこかに、日本と中国の国境があるわけです(日中双方で意見は食い違っていますが)。