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「宗主国」の日本人へ~モンゴル人からのあるメッセージ

どれだけ歴史を知っていますか?

日本は謝罪せよ! 中国は傲っている! 韓国とはつきあいきれない……。歴史とはそれぞれの民族や国家の立場によってまったく違って見えるものであるゆえに、きわめて複雑でやっかいである。

さらに、現在の「歴史認識」問題には決定的に欠けている要素があることに多くの日本人は気づいていない。内モンゴルを故郷とし、中国と日本で学び、日本で活動する歴史人類学者が説く、草原から見た20世紀北東アジアの激動の歴史。

モンゴルについて、なにをご存じですか?

「モンゴルについて、なにも知らない」

大勢の日本人がそのように語ります。たいがいは、大相撲で複数名の横綱をはじめ、多くのモンゴル人力士たちががんばっている姿を見たのちに、あらためて謙虚に驚嘆の声を上げてくれます。

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しかし、私はこうした日本人たちの姿や「謙虚な声」を見聞きして、必ずしも「美徳」だとは感じていません。むしろ、あまりにも無責任ではないか、とすら言いたくなります。

あなたがたは台湾についてどれほど知っているの? 中国は台湾を自国領だと主張するのに対し、台湾にはいろんな声があります。なぜかご存じでしょうか。

どうして、朝鮮半島はふたつの国家に分断されているのか。そこには、日本の責任はないのでしょうか。

 

答えは簡単、「責任あり」です。台湾も朝鮮半島も日本の植民地だったのですから。
モンゴルについても同じです。具体的にはモンゴル高原の南部、俗にいうモンゴル国(外蒙古)に対する内モンゴル、今日の中国領内蒙古自治区は日本の植民地だったのです。

台湾と中国の対立、南北朝鮮の分断、そして内外蒙古すなわち内モンゴルとモンゴル国の分離もまた、日本の大陸進出に淵源しています。日本の大陸進出がなければ、台湾も朝鮮半島も、そしてモンゴル高原も、その地政学的状況はまったく違っていたはずです。わかりやすく言えば、内モンゴルは中国領とされていないはずですし、朝鮮半島にも統一された国家が樹立されていたでしょう。もっとも、台湾についてはわかりませんが。

日本人はいわば、みずからが植民地体制を敷いて(強いて)きたところの人びとの歴史と生きかたをすっかり忘れてしまったのです。いや、意図的に忘却すべく、歴史と自分自身の経験を抹消してきたのではないか、とさえ私には見えます。というのも、モンゴル人は700年も前の13世紀にユーラシアをまたぐ大帝国を打ち立てましたが、誰もその過去を忘れていません。

日本人はどうして、自身が関わった、20世紀前半の「帝国建設」の歴史を無視する「健忘症」におちいってしまうのでしょうか。

思うに大相撲の力士たちは、かつての宗主国でスポーツをするような感覚で日本に来ていると言っていいのです。内モンゴルのモンゴル人たちも、宗主国で知識を学ぼうとして、日本留学してきています。

それは、アフリカ各国の人たちがフランスやイギリスなどに来るのと、まったく同じなのです。ヨーロッパのスポーツ選手団を見てください。いろんな人種と民族の人びとからなっています。それは、かつての植民地と宗主国とが、合同でチームを作り、共生しているからです。

ヨーロッパとちがい、日本人は「美徳的」かもしれませんが、健忘症のようです。「モンゴル人力士はなあ……」、と首をひねって相撲協会に不満不平をこぼすよりも、もう少し、歴史を学んだほうがいいと思います。