お金と銀行の「民主化」はもう止められない~若林恵が語る金融の未来

「自己主権経済」とは何か?
若林 恵

銀行は「社会変革」の最前線である

——という観点から、AIやロボットに仕事を取られ、ヒトはベーシックインカムで暮らして行くことになるのである、っていうような話も出てくるわけですよね。

そう。でも、そうなるまでには、まだ随分時間かかりそうじゃないですか。本当にそうなるならそれでいいんですが、AIやロボットが完全にぼくらの仕事をテイクオーバーして国民全部を食わせられるだけの生産をもたらす時代は、じゃあ、いつ来るわけ? そこまでの過渡期の間はどうすんの?って思うんですよ。だし、その過渡期の間に起こること次第では、その先に来るはずだった状況は永遠にこないということだってありそうじゃないですか。

——そうですよね。

加えて、注目すべきなのは、テクノロジーによって仕事は減るという前提に対して、「本当か?」と疑義を呈する向きもあることでして。デイビッド・グレーバーという文化人類学者が、『Bullshit Jobs』という本のなかで指摘してることなんですけど、それこそ1930年だかにケインズという経済学者が、「20世紀の終わりごろにもなれば、先進国では、働き手は週に15時間くらいの労働時間になっているだろう」って予測したというんですよ。

——へえ。

 

ところが、まったくそうならなかったわけですよね。むしろ仕事増えてないか?って。

——ほんとだ。

実際起きたことといえば、テクノロジーが入ってくればくるほど、管理業務ばかりがやたらと増えたっていうことで、それこそがグレーバーの言うところの「クソみたいな仕事」なんですか、そういう仕事だけがやたらと増え続けたこの100年、と。

——ツラい100年ですね。

グレーバーが行なった調査によれば、「自分の仕事はこの世になくていい仕事だ」と思いながらその仕事に従事している人は、英国と米国で、実に30%にも上ったそうなんですよ。

——多い気もするけど、少ない気もする(笑)。

あはは。これとは話が逸れますが、ちなみにエジソンって人は、「世の中で、まともにモノを考えてるのは5%だけだ」って言ってたらしいです。

——厳しいなあ、エジソン。

で、自分は何かを考えてるつもりだけど実際は考えてないのが10%。残りの85%は頭使うくらいなら死んだほうがマシだと思ってる、と(笑)。

——そりゃ、エジソンと比べられたらねえ…。

いずれにしても、自己申告で「自分の仕事はなくていい仕事だ」って思ってる人が3割ってのは、相当痛ましいじゃないですか。で、なにが怖いかというと、「AIやロボットのおかげでヒトは仕事から解放される」というようないま言われてる予測って、まさに100年ほど前のケインズと予測としては同じだってことなんですよ。

——たしかに。

で、その予測が大ハズレだったわけですから、いま言われている「AIとロボットで仕事しなくてよくなる!」って予測もすでにしてアヤシイ、とも言えるんですよね。つまり、もっとクソみたいな仕事が増え、さらに大量の官僚サラリーマンが量産されると。

——イヤですねえ。

ついでに言いますと、ロボットということばの起源とされてるカレル・チャペックの『RUR』っていう戯曲は、1920年に発表されたものですが、そのなかでも、ロボットのおかげで「人類は労働から解放されるのだ!」ってことがロボット会社の社長の口から繰り返し語られていまして、この論調が、ほんとにいまどきのAI・ロボット好きと一緒で驚いちゃいました。つまり、100年前から同じことが言われていて、一向に実現される気配もない。もちろん、100年前とテクノロジーの質も、経済の仕組みもだいぶ違うので、今度は大丈夫だ!って意見もあるとは思うんですが、いずれにしても、言うほど単純には、ことは運ばないのではないか、と。

——ちなみに、チャペックの戯曲の結末はどうなるんです?

最後に少しヒネりはあるんですが、基本、人類はロボットに殲滅させられます。

——あらら。

というわけで、お金や銀行の話からだいぶそれちゃったんですが、要は、一方に「テクノロジーの進歩によってむしろ大変なことが起きない?」みたいな懐疑があって、もう一方に「資本主義ってもうどこにも行かなくない?」といった経済システムに対する懐疑もあって、その両方が折に重なるところで、あらゆる人の生きるよすがであるところの「お金」と「仕事」ってものが大きく動揺しているということなんだと思うんです。

しかも、お金と仕事は、さっきも言ったように国家にとっても重大事なので、個人の「働き方」や「収入」といった話と、グローバルレベルにおけるお金と雇用をめぐる話とが直結しちゃって、ミクロなんだけどマクロな話でもあるという、これはもう、一介の編集者なんかにはまるで手に負えない、やたらと複雑な話になってきちゃうんですね。

——よくそんな話題に手を出しましたね。

いや、ほんとに。ただ、まあ、別に自分で、それを論理化する必要もないし、なんらかの結論を出さなきゃいけないわけでもないっていうのが、雑誌のいいところですので(笑)、そうした問題を、色んなスコープから色んな方に語っていただこうと。で、「銀行」っていう対象が面白いのは、そこが、いま言ったような様々なテーマがクロスする場所だったりするからなんです。

PHOTOGRAPH BY YURI MANABE
10月18日、東京六本木・アカデミーヒルズで開催された「Innovative City Forum 2018」にて。メディア美学者の武邑光裕、憲法学者の山本龍彦、NECフィンテック事業開発室長の岩田太地と「信用の未来」をテーマにしたパネルに参加。武邑、山本、岩田はいずれも『NEXT GENERATION BANK』に寄稿している。