お金と銀行の「民主化」はもう止められない~若林恵が語る金融の未来

「自己主権経済」とは何か?
わかばやし・けい/1971年生まれ。編集者。2012年より『WIRED』日本版編集長を務め2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。著書に『さよなら未来』(岩波書店・2018年4月刊行)。12月11日に刊行された若林の責任編集によるムック『NEXT GENERATION BANK 次世代銀行は世界をこう変える』は、黒鳥社が発行するプリントメディア「黒鸟雑志」の第1弾。写真=間部百合(Yuri Manabe)

「お金は人任せ」な日本人の未来

——こんにちは。現代ビジネスへの登場は、半年ぶりですね。

そうですね。ちょうど半年。

——『さよなら未来』が発売されたタイミングでの登場でしたが、そのときのインタビューを読み返してみたら、フィンテックの話してましたね。

たしかに。そうでした。北欧のフィンテックの視察に行った話、してましたね。この12月に刊行した「次世代銀行」をテーマにしたムックの直接のきっかけなので、話がそのまんまつながってるんです。

——その記事では、こんなこと言ってます。「北欧で見たフィンテックは泣く泣くフリーにならざるを得なくなった人に対する一種の支援機構・セーフティネットでもあって、ぼくはそこにとても感心したんです」と。

ああ、まさにそうなんですよ。「それ、ちゃんと言っとかなきゃな」って思ったんですよね。ぼくの誤解かもしれないですけど、日本で言われている「フィンテック」って、投資とか投機をめぐるものとばかり見えて自分と関係ない話だって感じしかしてなかったんですけど、そうじゃないんだってわかったのは、ちょっとした発見で。

——お金、興味ないんですか?

お買い物は好きなんだけど(笑)、お金そのものが情熱の対象になるっていう感覚がないんですね。金融機関には基本行く気がしないですし。それは海外でもそうらしいんですけどね。「みんなバンキングは大好きだけど、バンクは大嫌いだ」って。

——バンキング?

お金が貯めるのは好き、って意味だと思うんですけどね。だし、金融って、その仕組みがわからない人にしてみたら、もうやたらとハードルが高い感じしますし。こないだ、かつての『WIRED』日本版の創刊編集長だった小林弘人さんにお会いしたら、最近フィンテック関係の仕事を熱心にやってるそうで、「これまで金融は、自分みたいな素人がうっかり手を出せるようなものじゃないとずっと思ってたんだけど、それも変わってきた」って興奮しながらお話されていて、自分もそういう感覚はあったんです。金融は専門家がやるものなので、カルチャー畑の編集者が手を出すなんて滅相もない、って感じだったのが、やってみるかあ、という気になったという。

——そう思うようになったってことからして、すでに状況の変化の現れかもしれないですね。

先日、これまたとあるイベントで、マーケットデザインやメカニズムデザインの専門家である経済学者の坂井豊貴さんとご一緒したんですが、そこで坂井先生が面白いことをおっしゃってたんですよ。為政者気分でGDPが上がった下がったなんて話をしたがる人は多いけれど、自分の収入の成長率をちゃんと把握してる人ってどれくらいいるんですかね、って。国の経済成長も大事ですけど、自分の経済成長はもっと大事ですよ、ってお話だったんですが、ほんとだね、と。

 

——専門家風を吹かそうと思ったら、経済の話、なかでも金融の話するのが、一番手取り早いですもんね。

でしょ。で、そういう状況が進めば進むほど、それについては自分は無知だと思っている人は、興味を失っていっちゃうわけですよね。だし、日本はただでさえ、会社勤めをしていれば、保険やら税金やらについては知らなくても困らないわけですから、当然興味ももてなくなりますよね。これは取材してて聞いたんですが、口座の自動振替みたいなことを平気でやってるの日本くらいだよ、って言われて驚いたんですよ。

——そうなんですか?

欧米だと、みんな自分で振り込むんだとか。って「勝手に振替とかされたら、金額とか間違えるだろ?」っていう理屈らしいんですが。

——日本の感覚だと、自分で振り込んだりするほうがよっぽど間違えるわ、って感じですよね。

それだけ現行の銀行システムが優秀で、多くの人がそれを相変わらず信頼しているってことではあるんでしょうけど、でも、そういう業務を面倒でも自分でいちいちちゃんとやってたら、自分の財務状況もきちんと把握できるようにもなるんでしょうね。

——なんなんでしょうね。日本ってお金は人任せって感じ、強いですよね。

ね。いつから、なんでそんなことになってるんですかね。お金の話をするのははしたないって文化も根強い感じありますし、なんか仕事の支払いのことでちょっとでも交渉したりすると、すぐ感情的になったりしますしね。今回のムックをつくる際に、海外の写真家の作品を借りたり、原稿の転載についてやり取りしてて、それなりに金額の交渉もありはしたんですが、サバサバと気持ちのいいものですよ。

——やりやすそうですね。

そうなんですよね。自分の仕事と金額の相関が明確なのかもしれないですね。日本だと、払ってる方も、払われてる方も、なにに対してお金が動いているのかが曖昧で、明確な合意もないから、それがズレてると必ずモメごとになるんですよね。

——発注論ですね。っていうような話はムックのなかに出て来るんですか?

いや、さすがにそれは出てはこないんですけど、でも、お金の話って、まずは「仕事」ってものとセットじゃないですか。国家の言葉でいえば、経済と雇用は連動してるわけですし、それは個人レベルにおいても同じはずですよね。働くからお金が手に入り、お買い物もできるわけなので。って考えると、金融のシステムの変革が、あらゆる人の「働く」と深く関わっているものとしてなかったら、それこそ、よくわからない話になっちゃうんだと思うんです。

——たしかに。

前々から不思議なんですけど、デジタルテクノロジーって、基本、雇用をかつてほど求めなくてもいい、っていうのがウリなわけじゃないですか。大量生産の時代って、モノを大量につくるために大量の働き手を動員して、そのおかげで大量の人たちが豊かになって、結果として大量の消費が生み出されて、そのおかげで、また大量のモノがつくられていく、っていうそういう循環になってたわけですよね。

——でしょうね。

なんだけど、いろんなテクノロジーの進展の結果、大量の働き手を動員しなくて済むし、色んなところでかかっていたコストも、どんどん削減していったら、当たり前だけど、雇用って、もはやこれまでのような形で確保することって難しいじゃないですか。どうするつもりなのかなあ、って前々から気になってるんですけどね。