そして「生命2.0」への道(前編)

生命1.0への道 第16回
藤崎 慎吾 プロフィール

「生命2.0」は頭でっかちの人間

僕は東北大の講演会場にいた鈴木さんをつかまえて、「40億年前の地球に『生命0.5』、つまり最初の完成版である現生生物のベータバージョンみたいなやつが、いたと思いますか?」と、まず尋ねてみた(写真7)。すると、次のような答えが返ってきた。

「そう思いますね。私は40億年くらい前にあったであろう環境に近いところの微生物を研究しているんですが、そこから考えると、すごくシンプルなエネルギー代謝をもつシンプルな生命だったのではないでしょうか。当時、少なくとも地下深部はすごく還元的で、表層は少し酸化的だった。その地下深部にあるエネルギーを使うんだけれども、他には何もできないシンプルなシステムだったと思います」

【写真】鈴木さん
  写真7 鈴木志野さん(東北大学にて)

「還元的」というのは、この場合、酸素が存在しない一方、水素が豊富な環境のことで、まさにザ・シダーズの泉がこれに当たる。シンプルな生命というのは、そこで鈴木さんが発見した細菌のようなイメージなのだろうか?

「それは、あります。あそこにいるような微生物っていうのは、たとえば我々、今の生命が持っているシステムの部分的なものを結構、持っているので、もしかしたら、ああいうものが寄り集まって、1つの生命体をつくってきた可能性はある。パーツを持った複数の異なる生命がいて、それが集まって1つの生命体になった可能性はあるというふうに思います」

第13回で紹介したが、南極の露岩域にある池も、冷たく栄養に乏しい極限的な環境で、そこに集まっている細菌たちは「水平伝播」という形で遺伝子を融通し合いながら、何とか生き延びていた。原始地球でも、それと似たようなサバイバル戦略をとる「生命0.5」たちがいて、原始的な共生関係に基づく生態系を形成し、やがてその生態系自体が1つの生命という形をとるようになっていった。そういう可能性もある、ということだろう。

ザ・シダーズの細菌たちは「生きた化石」のようなもので、40億年前にいた「生命0.5」たちの、直接の子孫なのかもしれない。あるいは環境に適応しようとした結果、「生命0.5」と同じ生きかたをせざるをえなくなった、ということか。

ただ400個の遺伝子の中に、我々が想像もしなかったような代謝や増殖システムを備えていたら、むしろ「生命2.0」という可能性もありうる。だとしたら幻のウルヴァリン細菌のときと同じくらい、衝撃的なニュースになるだろう。

一方、鈴木さんに「今後、『生命2.0』が現れるとしたら、どんな生命をイメージしますか」と聞いてみたところ、別の方向からの答えが返ってきた。

「知的生命体が出る前までは、自然環境が選択圧となって進化してきました。でも我々はもう、寒さや暑さには影響を受けなくて、今、私たちが受けている選択圧というのは、たとえばコミュニケーション能力だったり、ある種の知的なものだったり、知識だったり、技術だったり、まったく自然とは関係なくて、人間社会の中だけで起きている選択圧です。これまでの、環境によって生死を分けるような選択圧だった時代とは、まったくちがう進化プレッシャーが来ているわけですよね。もし我々、知的生命体のバージョンアップだとしたら、高度に頭でっかちになった……あんまり魅力的じゃないですよね(笑)……それは本当に進化と言っていいのかも、ちょっとよくわからないんですけど、知的でコミュニケーション能力が高くって、戦略的で、そういう人がお金を稼いで子孫を残せるという時代なので、そういった能力が過剰に進化すれば、最終的に巨大な頭の人間が出てきても、おかしくないかと思います」

つまりスティーブン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』や『E.T.』に出てきた宇宙人のようなイメージだろうか。

SF小説も書いている作家として少しつけ加えさせてもらうと、頭でっかちというのは、必ずしも脳が巨大化しなくてもいいのではないかと思う。たとえば今、流行りの人工知能(AI)と融合してしまうのでもいい。脳の一部がAIに置き換わって、それが何らかの形で子孫にも受け継がれるようになれば、骨が金属に置き換わったのと同じか、それ以上に「ミュータント」だとは言えるだろう。

次はいよいよ最終回だが、こういう調子でさらに3人の方々にご登場いただき、奇想天外なアイデアを語っていただこうと思う。お楽しみに。

第17回に続く