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独与党の新党首誕生で見えた「メルケル帝国の終焉」

国民は「女帝」の引き際に興味津々

フリードリヒ・メルツという男

「いやぁ、本当に助かった。あんな男が党首になってたら、エライことだった!」

シュトゥットガルトのクリスマス市で勢いよくソーセージを頬張りながら、友人はそう言った。彼女は30年来のCDU党員である。

その前日の12月7日、ハンブルクで開かれたCDU(ドイツキリスト教民主同盟
)の党大会で、1001名の党員代表によって、アンネグレート・クランプ−カレンバウワーが新党首に選ばれた。メルケルの後任だ(メルケルは、首相の方は2021年に任期が切れるまで続けるつもり)。

クランプ−カレンバウワーは、今年の3月、第4次メルケル政権が成立したときに、メルケルがCDUの幹事長にと引っ張ってきた女性政治家だ。順調にいけば、いずれ首相になると見られた。56歳。名前が長すぎるので、最近はAnnegret Kramp-KarrenbauerのイニシャルをとってAKKと呼ばれることも多い。

ザクセン州の臨時党大会での三候補〔PHOTO〕gettyimages

今回、党首候補は全部で3人いた。このAKKと、友人が「あんな男」と切り捨てたフリードリヒ・メルツ、そして現保健大臣の若きイェンス・シュパーン大臣(38歳)。ここ18年間、毎年一回の党首選出では、候補者はメルケルだけ。それも、常に9割以上の賛成票で承認というのが恒例になっていたのだから、今回はまさに異常事態だった。

しかも、今回のメルツの参戦には、彼のメルケル首相に対する積年の怨念がこもっているというのが、もっぱらの噂で、シュピーゲル誌までがそう見ていた。というのも2002年、当時すでに党首だったメルケルが、メルツの就いていたCDU/CSUの院内総務という重職を自分のものにするため、強力な圧力を掛けて退かせたという事件があったのだ。

 

若い頃から人生を政治に捧げ、ここまで昇ってきたメルツの出世の道は、こうしてメルケルによって唐突に閉ざされた。彼はメルケルとは1歳違いだから、将来メルケルが首相になるなら、それは彼には永久に回ってこない。

結局、メルツは2009年、党籍は残したまま政治から離れ、そのあとは弁護士として世界を股にかけて活躍した。専門は金融で、様々な世界的企業の顧問や監査役を務め、さらに世界最大の資産運用会社ブラックロックのドイツ責任者になった。

ブラックロックはアメリカの会社で、膨大な影響力を持った組織だ。運用資金は日本の国家予算よりも多いという。

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ただ、メルツは巨大ビジネスの傍ら、ずっとベルリンを眺めていた。そうするうちにCDUは徐々に弱体化し、ついにメルケルが党首の座を退くと発表した。

そのとき、メルツが忽然と舞い戻ってきたのだ。メルケルの稚拙な経済政策にしびれを切らしていた産業界は狂喜し、彼を救世主のように奉った。

ちなみに、私の住むバーデン−ヴュルテンベルク州は産業先進地で、当地のCDUは全面的にメルツを推していた。そういう意味では、私の友人は異端だった。

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