『海と陸をつなぐ進化論』カバーより

0.1mm未満!クジラの進化を促した「小さな巨人」が水中にいた!

「ガラスの衣」をまとった謎の微生物
大きさわずか数十ミクロンの「微化石」を観察し続けて二十数年。その結果わかってきた、地球と生命の歴史の新たな姿とは? 多彩な微化石の驚くべき写真とともにご紹介します!

「共進化」のほんとうの意味

「進化」とはなんでしょうか?

この地球上には、さまざまな生き物たちが暮らしています。海には海の、陸には陸の、それぞれ異なる環境にうまく適応した各種の生物たちが、多様な生態系を形づくっています。

生物が海で誕生し、魚類や両生類の登場を経て、やがて陸上へと生活圏を拡大しながら、私たちヒトを含む哺乳類の誕生へといたったことはみなさんよくご存じのとおりです。38億年にも及ぶ長い生命の歴史において、種を増やし、深海から樹上、ときには空にいたるまで、多様な地球環境に適応してきたプロセスそのものが進化です。

そのような進化の道すじをたどるとき、「共進化」という言葉が使われることがあります。複数の生物種が、互いの生活サイクルや増殖・繁殖に際して強く影響し合いながら進化する現象を指しています。

共進化の例としてよく挙げられるものに、ハチなどの昆虫と彼らに花粉の拡散をゆだねる植物との関係や、サンゴとその内部で栄養供給源として生きる褐虫藻(かっちゅうそう)のような寄生・共生関係があります。

それらにはどこか、ある生物と他の生物の「一対一」の関係で共進化していくイメージがあるかもしれません。

しかし、「共」進化の意味するところは、そのような「狭い」関係だけにとどまりません。

「地球」という舞台の上で、多数の生物たちがもっと複雑につながりあい、網の目のように絡まりあった重層的な関係の中で、互いに影響を与え合っています。さらには、地球環境そのものの変遷、すなわち、大陸の配置や海流の変化、それらにともなう気候変動からも、私たち生物のたどった進化の歴史は、大いなる影響を受けてきました。

それは、各生物と地球環境から成り立つ生態系そのものが、“総体”として進化してきた歴史と言い換えることができるかもしれません。

「海と陸のつながり」から見えてきた新しい進化論

地球と生命の歴史をひもとくには、さまざまな手法があります。

プレートテクトニクス理論に基づく大陸の誕生と移動のプロセスの解明、地質学的調査に基づく古環境の復元、コンピュータシミュレーションによる古気候や海流変化の過程の再現、化石や遺伝子解析に基づく生命の系統樹の構築……。

そのような研究の蓄積によって、地球が誕生して以来の、46億年の壮大な物語が少しずつ解き明かされてきました。

私自身の研究テーマは、微化石(びかせき)からの生命進化へのアプローチです。

微化石とは、顕微鏡を用いることでようやくその姿を目にすることができるようなごく小さな化石のことです。その小さな化石を日々、何年にもわたっていくつもいくつも観察し続けたことが、ある一つの「発見」につながりました。

それは、ヒマラヤ山脈の形成など「陸を変える現象」が気候の変化を促し、その気候変動がこんどは「海の構造変化」を呼び込み、やがて私が毎日目にしてきた微化石の“持ち主”の変化を通じて他の生物たちの大進化をもたらした、という事実です。

そのなかには、地質学的にはきわめて短い期間である、わずか数百万年のあいだに劇的にその姿を変貌させたクジラ類の進化も含まれています。目に見えぬほど小さな生物が、地球上で最大級のサイズを誇る生物の進化に影響を与えていたのです。