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いまさら聞けない「ゲノム編集」その可能性と危険性

1970年代からの変遷をおさらいする

ゲノム編集とは何か?

先月末、中国の科学者が「遺伝子操作ベビーの誕生」を発表して以来、俄かに注目を浴びたゲノム編集(ベビー誕生の真偽は未だ不明)。「どうやら生物の遺伝情報を書き変える技術のようだ」とまでは分かっていても、いま一つ実態がつかみ難いかもしれないので、今回は改めて、この驚異のバイオ技術について解説してみたい。

まず「ゲノム(genome)」とは私たち人類を含む、あらゆる生物の細胞に含まれている「DNA(デオキシリボ核酸)」とほぼ同じ意味だ。

DNAには、G(グアニン)、A(アデニン)、C(シトシン)、T(チミン)という4種類の文字(実際は「ヌクレオチド」と呼ばれる化学物質)が、ほぼランダムに並んだ遺伝情報が記されている。つまり「GTGACCGTCCGGGTA・・・」という極めて長い文字列、これがゲノムだ。

このゲノム(ヌクレオチド配列)を自由自在に編集、つまり書き変える技術が「ゲノム編集」だ。このように遺伝情報を書き変えることができれば、それは私たちの顔形や身長、体型のような外見から、性格や知能のような内面、さらには運動能力まで(原理的には)変えられることを意味する。

あるいはゲノム編集は「遺伝子操作技術の一種」という見方もできる。ゲノムという遺伝情報は、「DNA上に沢山ある遺伝子の集まり」と言い換えることもできるからだ。つまりゲノムを編集する(書き変える)ということは、これらの遺伝子を操作(変更)することでもあるわけだ。

こうした遺伝子操作技術は実はかなり前から存在している。それは一般に「遺伝子組み換え技術」と呼ばれるもので、1970年代に米スタンフォード大学のポール・バーグ教授らを中心に開発され、その中には日本出身の分子生物学者、板倉啓壹博士も含まれる。

ポール・バーグ教授〔PHOTO〕gettyimages

今、注目されているゲノム編集はある意味で、この遺伝子組み換え技術の延長線上に生まれた最新鋭の遺伝子操作技術だ。しかし違う側面から見ると、両者は相当異なる技術と見ることもできる。それを、これから簡単に説明していこう。

偶然に頼った、初期の技術

1970年代に登場した遺伝子組み換え技術は、1990年頃から主に農作物の品種改良に応用され始めた。「GMO(遺伝子組み換え作物)」という言葉を、ときどき新聞やテレビなどで見かけるが、このGMOを作るのに使われた技術が、まさにこの遺伝子組み換え技術なのだ。

なぜ遺伝子の「組み換え」という表現が敢えて使われるかというと、それは農作物の外部から別の遺伝子(外来遺伝子)をもってきて、これを農作物本来の遺伝子と組み換える方式だからだ。

 

たとえば(科学者が)殺虫性のバクテリアを自然界から探してきて、この殺虫遺伝子を(遺伝子組み換え技術を使って)農作物のDNA(ゲノム)に組み込んでやれば、この農作物が害虫への抵抗力を持つようになる。これは米モンサントが開発・商品化したGMOの一種だが、消費者団体などは未だに、こうしたGMOへの反対運動を展開している。

彼らがGMOの危険性を指摘する際、一つの理由として挙げているのが、こうした遺伝子組み換え技術の「いい加減さ」だ。つまり、この技術ではDNA(ゲノム)上の特定の場所を狙って組み替えることができないのだ。

では、どうするかというと、偶然に任せるのである。ある種の土中バクテリアの感染力を使って、(前述の殺虫遺伝子のような)外来遺伝子を農作物の細胞核に送り込んでやる。すると「相同組み換え」と呼ばれる自然界の原理によって、この外来遺伝子が農作物のDNA上のどこかに組み込まれるが、その場所までは指定できない。

結果、科学者が狙った通りのGMOを実現するまでに1万回もの遺伝子操作を繰り返した末、やっと1回だけ成功する(=偶然、狙ったところが組み変わる)といった程度の、極めてランダムな技術だったのだ。

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この遺伝子組み換え技術はマウスのような実験用動物にも応用されているが、こうした哺乳類になると、その操作精度は農作物のような植物よりも、さらに低くなる。

たとえばDNA上にある特定の遺伝子を破壊した「ノックアウト・マウス」を作ろうとする場合、マウスの受精卵の核に「マイクロ・インジェクション」と呼ばれる注射のような方式で、(目的の遺伝子を攪乱して破壊するために用意された)特殊なヌクレオチド配列を注入する。

しかし、これもやはり(目的とする遺伝子を)「狙って破壊する」のではなく「偶然に任せる」方式であるため、このような遺伝子操作を100万回も繰り替えした挙句、やっと1回だけ成功する程度だった。