〔PHOTO〕gettyimages

「リベラルな世界秩序」は終わった?ブッシュ家の葬儀から見えたこと

中国がイノベーション国家と化した意味

歴代大統領夫妻が並ぶ最前列で…

まさか、たった3ヵ月で再び目にするとは思わなかった。“W”がミシェルに「のど飴」を与える場面を。しかも3ヵ月前と同じワシントン大聖堂で。

もちろん、“W”とはジョージ・W・ブッシュ、ミシェルとはミシェル・オバマのことだ。

3ヵ月前とは、ジョン・マッケインの葬儀のことで、そのときのWとミシェルのやり取りは「スイート・モメント」として、つまり一種の党派を超えた微笑ましい出来事として注目を集めた(参照「『トランプのいないアメリカ』夢のような4日間とは何だったか」)。

けれども今度はWはミシェルの隣に座っていたわけではない。12月5日に行われた父ジョージ・H・G・ブッシュ(以下「ブッシュ」)の葬儀の喪主であったからだ。

だが、そんな二人の「スイート・モメント・アゲイン」も一瞬の出来事にすぎなかった。

今回はトランプ夫妻が参列しており、歴代大統領夫妻が居並ぶ最前列には、式の間、終始重たい空気が漂っていたためだ。

〔PHOTO〕gettyimages

当初は、マッケインの葬儀同様、今回もトランプは参列を呼びかけられないのではないかと思われていた。

というのも、マッケインに向けて行ったのと同じように、トランプはこれまで何度もブッシュ家の政治家たち、とりわけ2016年の共和党予備選を争ったジェブ・ブッシュに対して、ほとんど中傷まがいの批判を口にしてきたからだ。

けれどもブッシュ家は、現職大統領を参列から外したりはしなかった。むしろそのことに、今回も声がかからなかったらどうしようと心配していたメラニア夫人が胸を撫で下ろしたという話も伝えられたほどだ。

とはいえ、トランプが非難してきたのはブッシュ家だけではなく、オバマ夫妻、クリントン夫妻に対してでもあった。それもあって、トランプ夫妻が到着した途端、最前列は、一瞬のうちに凍りついてしまった。

 

参列者のうち、最前列には歴代の大統領夫妻が、続く第2列には副大統領夫妻がそれぞれ着席しており、トランプ夫妻が来場するまでは、第2列の副大統領夫妻を含めて、かつてホワイトハウスの主だった人びとは歓談を楽しんでいた。

いわゆる「プレジデンツ・クラブ」の雰囲気で、ちょうど前後の席に座っていたこともあり、ヒラリー・クリントンとディック・チェイニーの間でさえ普通に会話が交わされていた。

それがトランプ夫妻の登場で激変した。二人がしたことといえば、隣の席のオバマ夫妻と握手を交わしたくらいだ。

握手の瞬間〔PHOTO〕gettyimages

なにしろ、ミシェルは最近出版した彼女の回顧録『Becoming』の中で、夫(=バラク)の出生はアメリカではないと主張する「バーサー(Birther)」運動の首謀者の一人としてドナルド・トランプのことは絶対許さない、と記していたほどだ。

オバマ夫妻の隣にはクリントン夫妻が座っており、ビル・クリントンこそ、握手ぐらいは仕方がないという素振りを見せたが、隣のヒラリー・クリントンに至っては、トランプを目にすることなど汚らわしいといわんばかりに、険しい面持ちで正面をずっと睨みつけたまま、一切トランプの側に目をやることはなかった。

いやはや、ここはどこかのハイスクールなのか?と呆れるくらい、仲の悪さがそれとわかってしまう空間だった。

だから、Wがミシェルにのど飴を渡した出来事は、そんな張り詰めた空気を、一瞬でも和らげるものだったのだ。喪主の気配り、ここに極まれり、という感じだ。

実際、式が始まってからのトランプの行儀の悪さも大概であり、使徒信条は読み上げない、ブッシュの追悼者の言葉に腕を組んで憮然としてみせるといった具合で、多くの報道で、これが葬儀の場で子どもがしたことなら、親がきちんと躾るところだ、と指摘されていたりした。

もっともトランプからすれば、そんな態度をとってしまうのも仕方のないことで、なぜなら、ブッシュの追悼を聞けば聞くほど、自分が今していることを非難されているように感じてもおかしくはなかったからだ。トランプからすればまさに「針のむしろ」状態で、アウェイ感は半端なかった。

「アメリカ・ファースト」という、彼の保護主義、自国主義、白人主義の政策思想は、冷戦終結後の世界秩序の設立に尽力した一人であったブッシュの思想と真っ向対立する。

就任以来トランプは、ブッシュが冷戦後の世界のために構想した世界秩序を、NATOやNAFTAなどその構成要素から破壊し続けている。

その意味で象徴的だったのは、トランプが参列しオバマと形ながらの握手を交わした際に、第2列のチェイニーがトランプを睨みつけたように見えたことだ。

チェイニーは、ブッシュ時代には国防長官を、W時代には副大統領を務めていた。いわばブッシュ家の番頭として、ブッシュが手がけた世界秩序を実際に作り上げた一人だった。チェイニーからすれば、その努力を台無しにするのがトランプなのである。

このように随所でブッシュ家vsトランプの確執が垣間見られる葬儀であった。