フランスデモ、怒りの根底にある「庶民軽視・緊縮財政」の現代史

マクロンは折れた様子を見せているが…
小田中 直樹 プロフィール

しかし、よく考えてみれば、有権者のボリュームゾーンは庶民であり、中間層・エリートではない。かくして、庶民をターゲットとする国民戦線と不屈フランスは順調に支持率を伸ばし、のちに2016年の大統領選挙第一次投票では合計して4割近くに達するまでに至った。

かつて国民戦線は「悪魔」とまで呼ばれ、メランションはほぼ単独で社会党を飛び出したことを考えれば、この得票率は驚異的である。

メランション〔PHOTO〕Gettyimages

両者の伸張に動揺した旧右翼・旧左翼は、新右翼・新左翼への接近の是非をめぐって事実上分裂し、政界は小政党の乱立状態となった。これが、2016年大統領選挙を前にしたマクロンの眼前に広がる光景であった。

3.短期:マクロンは「緊縮」をやめられない

マクロンはオランドの秘蔵っ子として、若くして政界にデビューするが、さすがに只者ではなかった。オランド属する社会党が分裂しつつある事態を見抜くや、ただちに彼は単独で政治団体「前進!(のちの政党・共和国前進)」を立ち上げ、大統領選挙に立候補する意思を明らかにしたのである。

そして当選し、その後の総選挙で自党・共和国前進の圧勝をもたらした。この行動力は、まさに賞賛に値する。

マクロンは「左右対立を超える」と主張して大統領に当選したが、ただし、彼の念頭にあったのは「(親中間層・エリートの)旧左翼と旧右翼の対立」であり、彼の視野に庶民は入っていなかった。

 

たしかに経済政策の次元で庶民に配慮することには欧州統合を妨げる危険があり、ドイツ首相アンゲラ・メルケルとともに統合欧州の中心人物となったマクロンにとり、それは「出来ない相談」である。

欧州連合に軋みがみられる今日、フランスが(通貨統合が成って為替レート安定化は不必要になったので)「緊縮財政」以外の経済政策を採用することは不可能だろう。マクロンは「反庶民」であることを運命付けられているといってよい。

マクロン大統領〔PHOTO〕Gettyimages

「反庶民」にして「親中間層・エリート」たるマクロンに対する庶民の不満がジレ・ジョーヌとして爆発するのは、いわば当然の理だった。ジレ・ジョーヌは庶民の直接行動なのである。

以上の歴史を踏まえれば、マクロンはジレ・ジョーヌに一定の譲歩は示すかもしれないが、経済政策や政治的スタンスを根本的に変化させることはないだろう、と予測できる。そうだとすると、ジレ・ジョーヌは一旦は収まるかもしれないが、庶民の不満はいずれまた別のかたちの直接行動として噴出するにちがいない。

もっとも、もしもルペンやメランションが大統領になれば、話はまた別かもしれない……が、その場合は、今度は「フレキシット」がささやかれることになるだろう。それもまた、ちょっと不吉な話ではある。