大学卒業後ドイツにわたり、現在ドイツに生活して4年になるライターの雨宮紫苑さん。雨宮さんは実体験をもとに『ドイツ人と日本人 比べてみたらどっちもどっち』という新書も執筆している。外国人を多くの意味で受け入れる方法について議論されている昨今、「外国人」として外国に住んで来た雨宮さんの視点で、2020年の東京五輪に向け、より「日本好きになってもらう」ためにどうしたらいいのかを考察してもらった。

長く住んでもその国に溶け込めない外国人

ドイツに移住するまで、「長く住んでいる外国人なら当然、その国に溶け込んで暮らしているのだろう」と思っていた。メディアを通じて見聞きする海外在住者はみんな、その国でキラキラした生活を送っているように見えたからだ。

しかしドイツに来て、10年住んでいてもほとんどドイツ語が話せない人がたくさんいることを知った。「そんなことありえる?」と思うかもしれないが、これが結構ありえる話なのだ。

この前乗ったタクシー運転手は、家族とともにトルコからドイツに移住してもう10年経つのだそうだ。しかし「妻がぜんぜんドイツ語を話せないから俺が手続きをしなきゃいけなくてつらい」とこぼしていた。「いまでは子どもが母親のために書類を訳してるんだ。本当にどうしたものかね」と続く。

(いやわたしに言われても)と困惑しつつ、(こういう話は結構聞くなぁ)とも思った。どれだけ長く住んでいようが、ドイツ社会から距離を置いている人は一定数いる。

そういった人を「本人が努力をしていないからいつまでたっても馴染めないんだ」と個人の責任にして責めるのは簡単だ。日本にずっと住んでいたら、わたしも同じように思ったかもしれない。

しかし外国人としてドイツで暮らし、異国の社会に溶け込むむずかしさを実際に肌で感じてみると、考え方は少し変わってくる。

ベルリンの街なか。ムスリムの女性も多く見られるのが普通の光景だ Photo by Getty Images

「言語を勉強してもいいことないから」

ドイツで出会った、数人の外国人の例を挙げよう。

カフェの清掃員をしていたトルコ人女性は、「ドイツ語を勉強したところでなにかいいことがあるわけじゃないから、もう勉強していない」と、カタコトのドイツ語で話してくれた。

現地の人々は「現地の言葉を勉強したらそれなりの仕事に就ける」と誤解しがちだが、外国人の立場からいえば、「そうとはかぎらない」。

まったく同じスペックなら、現地の人が優先して採用されるのは当然だ。だから、外国人が働く場合、言語的ハンデをものともしない資格や学歴で仕事を得るか、ドイツ人が嫌がるような『単純労働』に就くかのどちらかが主なルートになる。そして、資格や言語力が不要な後者の仕事をしている限り、ドイツ語力を磨くメリットは、少なくとも仕事上はほとんどない。

しかもドイツは資格社会だから、清掃員がドイツ語を学んでも事務員や保険のセールスにはなれない。それならば、「勉強したところで」となるのもしかたないだろう。