元経済ヤクザが読み解く「日産事件と欧州覇権争いの深い関係」

フランスの「将軍」を追い落とすため?
猫組長

ファーウェイ追放の深層

さて、夢から覚めつつあるEUに再び幻想を与えようとしているのが、マクロン氏だ。

これまでEUの金融政策は、欧州中央銀行(ECB)が行い、財政の主権は加盟各国に残したままだった。そこに、マクロン氏はユーロ圏の財政統合という新たな制度を創出しようとした。

「ユーロ圏の共通予算創設」とは、圏内富裕国が圏内貧困国にインフラ投資するところから開始し、最終的には財政主権もEUで一括して行うという夢のような構想である。

その金融版がEMF(欧州通貨基金)だ。2018年現在、IMFの議決権比率は1位がアメリカ(16.52%)、2位が日本(6.15%)となっており、ほぼアメリカの意向が反映される制度になっている。EMFの成立が、金融面でのアメリカからの独立を意味することは言うまでもない。

さらに、マクロン氏はそこに「欧州軍」構想を打ち出したのだから、もはや挑発というよりアメリカに挑戦状をたたきつけているようなもということになる。実現すれば、EUはかつてのソ連のように一つの大国と化すだろう。

 

1823年に発表されたモンロー教書はアメリカからヨーロッパへの別離宣言だったわけだが、それから200年の時を経て、マクロン氏はヨーロッパからアメリカへの別離を告げようとしているのだ。その先にあるのは、アメリカでも中国でもない、第二次世界大戦前のヨーロッパへの覇権回帰であることは言うまでもない。

こうみると、マクロン氏が、今のアメリカの国際戦略にとってどれほど邪魔な存在なのかは理解できたことだろう。

一方で、マクロン氏の国内支持率は就任時の60%から20%へと急落している。パリではデモを超えた暴動が起こり、装甲車まで展開。デモは全土に広がり、「革命」に近い状態になっている。この状況で、「国営企業」ルノーから日産・三菱が距離を置くことは、反マクロン運動のさらなる材料になることは疑いようがない。

アメリカは間違いなく日産事件を国家戦略の一つとして利用すると私は考えている。ましてやトランプ氏はTwitterによる口先介入で株価さえ操るのだ。戦争や暗殺などより、はるかにコストパフォーマンスの高い方法で、トランプ氏は「ヨーロッパ大国」成立を目指す将軍・マクロン氏を追い落とすことができるのだから、この日産事件は奇貨と呼ぶべきものに違いない。

そこに、また新たな「火種」が発生しようとしている。

マクロン氏が支持する「ユーロ圏の共通予算」「EMF(欧州通貨基金)」に同調したのが、ドイツの首相、アンゲラ・メルケル氏(64)だ。当初は自国の財政健全化を優先して難色を示していたメルケル氏だが、6月の首脳会談で独仏共同の欧州連合(EU)改革案として合意した。そのドイツと金融・貿易を含めて蜜月の関係にあるのが、中国だ。

それが仕組まれたものかどうかはともかくとして、日産事件はマクロン氏の勢いを削ぐのに大きな役割を果たすだろう 。そのタイミングでもうひとつ、世界を揺るがす経済事件が起きた。ファーウェイのCFOの逮捕と、アメリカを起点とした同盟国市場からの「締め出し」である。本件が中国はもちろん、実は親密なドイツ・メルケル 政権に打撃を与えるのは間違いない。

これが、新たな「世界勢力図」の断片である。次回はファーウェイの市場駆逐と、ヨーロッパを巡る米中覇権の関係について述べたいと思う。