元経済ヤクザが読み解く「日産事件と欧州覇権争いの深い関係」

フランスの「将軍」を追い落とすため?
猫組長

アメリカはヨーロッパを手離さない

さて、日産事件の余波はどこまで世界に及ぶか。アルゼンチンでのG20開催中の12月1日に、フランスの大統領、エマニュエル・マクロン氏(40)が、日本の総理大臣、安倍晋三氏(64)にルノー・日産・三菱の三社連合の継続を働きかけたことから、日産事件がマクロン氏の足元を直撃しているのは明らかだ。

マクロン氏にプレッシャーをかけることで一番得をするのはアメリカだ。現在アメリカは「アメリカのための世界」に国際社会を再編しようとしていることは前回の記事(『元経済ヤクザが大胆指摘!「ゴーン氏逮捕にちらつく米国の影」』)で書いた。

対してマクロン氏は、EUとアメリカの分断を図る中心人物である。その大きな柱が、「ユーロ圏の共通予算創設」と、欧州版の国際通貨基金(IMF)である欧州通貨基金(EMF)の設立だ。

 

歴史を振り返って整理をしよう。

EU(欧州連合)は1993年にマーストリヒト条約が発効されたことにより設立された(調印は1992年)。ヨーロッパには、多種多様な文化や民族が混在する。これが中国であれば、支配域にいる少数民族を弾圧し、暴力によって大多数の漢民族と合わせて「中国人」としてまとめることもできる。そんなことはできないヨーロッパは「イズム」という幻想によって「ヨーロッパ人」を成立させた。それこそがシェンゲン条約による「ヒト・モノ・カネ」の移動の自由というグローバリズムだ。

こうしてヨーロッパは「キリスト教の白人共同体」となった。カソリックとプロテスタントの間で長く紛争が続いたアイルランドから検問所が取り払われたのは、宗派による分断をイズムが超越した(かに見えた)典型例だ。

そのヨーロッパは、NATO(北大西洋条約機構)というアメリカを中心とした安全保障による安定の下で、経済を繁栄させる。石油・穀物などの戦略物資はドルでしか取引できないため、ユーロ・ダラー市場を形成し、米欧はいわば「持ちつ持たれつ」の関係を維持してきたのだ。

しかしEU圏内には「イズム」だけでは乗り越えられない格差が生まれた。EU以前にマルク高に悩まされていたドイツは、共通通貨ユーロと、元々ある生産力によって大きく発展する。だがEUの恩恵に与れないギリシアは2009年に財政危機に陥る。財政危機に陥ったヨーロッパの仲間を、冷たくあしらったのが他ならぬドイツだ。このとき、一つの共同体という幻想を、現実が破壊し始めたのである。

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「イズム」はイギリスも直撃した。金融の聖地、ロンドンシティを持つイギリスは、ユーロ・ダラー市場の拠点となり、東欧圏からの労働力と併せて大きく繁栄する。しかし08年のリーマンショックによって状況は一変。移民によって労働市場を奪われた国内の労働者の不満が爆発し、EU離脱を選択した。移民問題はまた、ドイツ、イタリアで極右と呼ばれる政党の躍進を引き起こした。

この混乱の渦中で生まれたアメリカの新大統領が、ドナルド・トランプ氏(72)だ。共同体の崩壊は、「アメリカのための世界」への国際社会再編を目論むアメリカにとって格好のチャンスだ。トランプ氏は、ブレグジット後にイギリスとFTA協議をすることを確約をして、大英帝国の一本釣りに成功している。

ブレグジットは「Britain」(英国)と「Exit」(退出)を合わせた造語だ。ヨーロッパの経済力は北高南低だが、今後トランプ氏は南欧のイタリア、スペインなど「Exit」を模索する国に、好条件のFTAを材料にして離脱を働きかけると私は見ている。