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アメリカで再び「彼は日本から来たばかりだ」と紹介された日

エンターテインメントの街で 第1回

米コロンビア大学を卒業後、現在、株式会社CTBの代表を務める筆者は今年、アメリカのエンターテインメント産業で仕事を作るべく、ロサンゼルスに拠点を移した。そこで目にしたさまざまな光景を伝える新シリーズをスタートする――。

ハリウッド映画の面白さを思えば…

こんな開放的な気候の中でいったい誰が仕事など手につくものかと、つい質したくなるカリフォルニアの肉感的な外気が、ペイリー・センターの屋上を包み込んでいる。

ビバリー・ヒルズの一角を占める文化施設に着飾って集った男女の肉体を、温かく乾いた風が繰り返し撫でると、これといった理由もなく浮ついた会場の雰囲気はいつしか正当化されてしまう。

エミー賞の授賞式を数日後に控え、ハリウッドの大手弁護士事務所が、リチャード・マイヤー設計のこの白い屋上でパーティーを主催している。

エミー賞の候補となった者らに祝杯をあげる口実のもと、事務所のクライアントたちを一か所に集め、互いに紹介し、その結果新しい案件が生まれれば弁護士が潤うという羞恥心のかけらもない魂胆に、しかし文句を唱える者など一人もいないのだ。

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慌ただしく東京からロサンゼルスに引っ越して数日後、まだ住む家がないためエアビーに依存しながら、私は誘われるままに会場に足を運んだ。マイヤーの白い屋上に上がると、グラスに手を伸ばす間も無く、事務所のパートナー弁護士がさっそく彼のクライアントに私を紹介し始める。

彼は日本から来たばかりだ。日本の著名な作家たちから、マンガやアニメの権利を預かってきてるんだ。マンガやアニメって知ってるだろ? ゴジラとかハローキティとかトランスフォーマーとかそういうやつだよ。ぜひ彼の会社と話すといいよ。と、当の日本の作家たちが聞いたら絶句するに違いない雑な説明が繰り返される。

『ゴジラ』は特撮映画であり、ハローキティはキャラクター商品に始まり、本来トランスフォーマーは玩具なのだから、いずれもマンガでもアニメでもないこと。そして、日本産という偶発的事実を除けば、3つの作品になんら共通点がないことは、当然のように割愛されてしまう。

さらに、確かに漫画の著作権は漫画家に帰属するが、アニメ化されると派生物であるアニメの著作権が製作委員会各社の共有資産となるため、途端にハリウッドでの映像化が困難になること。また、エキゾチシズムを纏わされたマンガとアニメという言葉ばかり流通する一方で、実際は、日本の小説を原作とした映像化が、ハリウッドで複数進行していることも論なく省略される。

 

もっともらしい言葉の反復がなにやら滑らかな表層を形成して、ざらざらとした事態の具体性は覆い隠されてしまうのだ。

だが、おそらくそれで良いのだ。

もっともらしい言葉に満足せずに、ざらざらとした具体にこそ興味を示す人たちが、ハリウッドにはいるはずだからだ。そのような人が集う場所が、この白い屋上でないのなら、どこか別のところに必ず存在すると信じることは、ハリウッド映画の面白さを思えば容易だ。

だから、いずれそこに行き着くために、そうだ、マンガやアニメを売りに日本から来たのだと肯首して、滑らかな表層の仮面を、今は積極的に被ろうではないか。