Photo by iStock

「日本ホラー小説大賞」最後の受賞作『黒いピラミッド』大絶賛のワケ

58歳でデビューした著者に聞く

人生起死回生の一作

―瀬名秀明氏、貴志祐介氏ら錚々たるエンタメ作家を次々と輩出してきた日本ホラー小説大賞。

今回、選考委員からの絶賛を受けて大賞に輝いた福士さんの作品『黒いピラミッド』は、エジプトから発掘された古代の遺物〈アンク〉をめぐって、日本とエジプトを股にかけてくりひろげられるホラー・アドベンチャーです。

小説の出来もさることながら、58歳での受賞という福士さんの「異色の経歴」に驚かされます。

もともと、20代の頃は自分で映画を作りたくて、映画の専門学校を卒業してからは助監督や映像制作の仕事をしてきました。

本当に朝から晩まで働きっぱなしの人生だったので、自分で脚本を執筆する時間がなかなか取れなくて、ジレンマを感じていたんです。10年ほど前から「自分の人生このままで終わっていいのだろうか」と思うようになりました。

今から映画監督になるのは難しいかもしれないけれど、これまでの経験を生かせば、人の心に刺さるエンタメ小説を一本くらい書けるかもしれないと思い、一念発起して執筆をスタートしました。

受賞の電話は盛岡の自宅で受けたのですが、いまだに信じられません。

―まさに「人生起死回生の一作」ですが、長年エジプトの発掘現場にたずさわり、取材もしてきた福士さんならではの題材です。

そもそも、なぜエジプトに関わるようになったのでしょう。

最初の出会いは、まったくの偶然でした。20代の後半に脚本を書いても書いてもなかなか食えなかった頃、人に紹介してもらって大学の研究室で発掘資料を整理するアルバイトを始めたんです。

Photo by iStock

定時で終わるので脚本を書くのに都合がいいと思って続けているうちに、「お前は写真やビデオの扱いに慣れているだろう」と、エジプト調査隊の発掘を映像に残す記録班に誘われました。

初めてエジプトの地に降り立ったときは、砂漠のスケールと吹き抜ける熱風に圧倒されて、ただただ立ち尽くしたのを憶えています。