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息子が人を殺しました…千件以上の「加害者家族」支援から見えたこと

日本の犯罪報道への大きな違和感

ある日突然、息子が殺人犯に

「息子が人を殺しました……」

震える声で話す相談者Aさんの息子(17歳)は、ある日突然、殺人犯となった。Aさんの脳裏に浮かぶのは、妹の面倒をよく見て、捨て猫に餌をやっている優しい息子の姿だけだ。虫も殺せないような息子が人を殺せるはずがない……。

事実を確かめる術もないまま、警察は、マスコミが押し寄せる前に自宅を出るようAさん一家を促した。一家は、着の身着のまま家を飛び出し近くのホテルに避難した。

ホテルに着いた頃、Aさんの携帯が鳴り出した。見知らぬ電話番号から何件も電話がかかってくる。実家からの電話に出ると、息子の逮捕報道が始まっているという。

 

Aさんがスマホを見ると、息子の殺人事件がトップニュースとして報道されていた。「鬼畜」「悪魔」「人間のクズ」「死刑にしろ!」、逮捕記事に関する書き込みはあっという間に増えていく。人から憎しみを向けられたことなどない息子に浴びせられる罵詈雑言……。その言葉のひとつひとつが、針のようにAさんの胸に刺さった。

「子どもの実名が出ないなら親の名前出せ!」「家族も同罪だ!」「家族も顔晒せ!」次第に中傷の矛先は家族に向けられていく。

自宅の近所に住むAさんの友人からの電話に出ると、自宅周辺はすでに報道陣に取り囲まれ騒然となっているという。

「もう家には戻れないだろう……」

Aさんの夫は力なく呟いた。

大人たちは仕方がない、Aさんはそう思った。問題は、息子のひとつ年下の妹だった。妹が通う高校にもすでに事件の噂が広まり、犯人の妹であることが知れ渡っていた。このような状況で、妹はとても登校する気になどなれなかった。

Aさん一家はしばらく、夫の親戚の家に身を寄せることになった。人目につかないよう夜中に自宅に戻り、少しずつ荷物を運び出した。

夫婦で自営業を営むAさんは、事件後、店じまいすることを考えた。しかし、これから自分たちを雇ってくれる会社など見つけられる自信はない。

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事件後、警察の事情聴取が続き、転居や自宅の処分など仕事どころではなかった。病気で働けなくなったときの保険には入っていたが、息子が事件を起こしたせいで働けなくなるなど想像したことさえなかった。

命を絶つことができたらどれほど楽だろうか……。Aさんは、一家心中する夢を何度も見るようになった。目が覚めるとすぐに、娘と夫が生きている姿を確認した。娘の首に手をかける自分を何度も想像した。それでも、実行することはできなかった。

息子はなぜ、人の命を奪うことができたのか。あんなに優しかった息子には裏の顔があったというのか。親として、息子の何に気がついていれば、事件は起きなかったのか……。

Aさんは、その答えに辿り着くまで生きていかなくてはならないと思うようになった。生きて苦しむことが、加害者の親としての償いだと思った。

Aさん夫婦はなんとか仕事を再開し、高校を退学した妹も店を手伝っている。ただでさえ、事件によって大きな迷惑をかけてしまった親戚には頼ることはできず、なんとか生きていかなければならないと立ち上がった。

家族3人生きていくだけで精いっぱいの経済状況だが、わずかでも遺族に賠償したいと懸命に働いている。息子が戻ってくるその日まで、息子の代わりに償いの日々を送っている。