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リーマンショックの裏で、危険な綱渡りに挑んだ証券ディーラーの運命

東京マネー戦記【1】2008年秋〜冬
森 将人 プロフィール

部長に無断で取引を……

「今日、ちょっとつき合えるか?」

ある日ぼくが業務を終えて帰ろうとしていると、篠塚部長に呼び出された。

真っ先に思い浮かんだのは、足もとの成績のことだった。今月も予算未達で終わるのは明らかだった。このままでは後輩に、ディーラーの席を譲らなければならないかもしれない。

そう思いながら居酒屋の席に着くと、篠塚が切り出したのは意外にも木村のことだった。

 

「あいつ、最近どうだ?」

「と、いいますと?」

「仕事に対する態度は、以前と変わらないか?」

「マーケットがこんな状態では面白くないでしょうけど、何か稼げないかいつも考えてますよ」

「そうか……」

「どうしたんですか?」

「あいつ、勝手にお客さんを動かそうとしてるみたいなんだ」

「資金調達ですか?」

篠塚はぼくの驚いた顔にうなずくと、枝豆をつまんだ。

「相手の会社とどんなやり取りをしてるかわからないが、今なら資金が取れるって、いろんな人間をたきつけてるらしい」

「相場を張るのが好きですから、チャンスだって伝えたいんじゃないですか?」

「その程度なら何もいわないよ。でもこんなマーケットだ。こっちから仕掛けるなら事前にいってもらえないと、損でもしたら誰にも助けてもらえなくなる。お前も知らなかったんだな?」

「はじめて聞きました」

ぼくは木村の行動が意外だった。

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部下がリスクを取るときには、事前に相談するようにというのが木村の口癖だった。そんな木村が部長に無断で取引に動いている――。

「何か聞けたら教えてくれ」

ぼくがうなずくのを確認すると、篠塚は若い頃の思い出に話を切り替えた。