英国の最新鋭戦艦を撃沈した攻撃機指揮官が遺した「意外な言葉」

77年前の今日 マレー沖海戦
神立 尚紀 プロフィール

搭乗機から1人の戦死者も負傷者も出さなかった

壹岐春記さんに話を戻す。

壹岐さんは、昭和19(1944)年10月には陸上爆撃機「銀河」で編成された攻撃第四〇五飛行隊長としてフィリピンでの航空作戦に参加、10月24日、シブヤン海上空で、戦艦「武蔵」とおぼしき巨大戦艦が、米軍機の攻撃によって、まさに沈まんとするところを目撃している。11月には攻撃第四〇六飛行隊長となり、なおも幾度かの死線を越えて、茨城県の霞ヶ浦基地で、本土決戦の準備中に終戦を迎えた。

何度も乗機が被弾しながら、壹岐さんの飛行機では一人の戦死者も、負傷者も出さなかった。戦後は警察予備隊を経て航空自衛隊に入隊、しかし自衛隊では飛行機の操縦には携わらず、主に事務畑の仕事について、一等空佐で退官した。その後は会社勤務を経て、東郷神社の役員となり、また海軍陸上攻撃機の元搭乗員で組織する「中攻会」の代表を務めるなど、2011年10月、99歳で亡くなるまで、戦没者の慰霊に尽くした。

2003年、91歳の頃の壹岐春記さん(撮影・神立尚紀)

壹岐さんは言う。

「戦争は二度とやっちゃいけない。戦争の悲劇を身をもって体験した世代として、若い皆さんに言っておきたいのは、いまのような平和な世の中を保っていくためにはどうすればいいのかという問題を研究して、戦争を起こさないための方策なり、技術を考えていただきたいということです。

私は戦争をしませんよ、と言って、どこからも仕掛けられなければそれに越したことはありませんが、もしやられたらどうするか、どんな形で守れるか。平和憲法はすばらしいが、本当にそれだけで済むのか。それを研究して、現実に即して戦争を避ける努力をしてほしいと思います」

――明治、大正、昭和、平成、四代の世を生き、戦争中は最前線で、命を賭して戦った先人からの、世紀を超えた遺言である。

 
神立氏の『証言 零戦』シリーズの最新刊。はじめて敵機を撃墜した搭乗員・生田乃木次さん、特攻隊員となった江戸旗本の孫・小野清紀さん他、6人の証言を収録。
 
皇統護持秘密作戦についての志賀淑雄さんの証言を収録している『証言 零戦』シリーズ第一作