「2・26事件」目の前で父を銃殺された渡辺和子さんの悲しみと赦し

『置かれた場所で咲きなさい』の原点

『置かれた場所で咲きなさい』の原点 

「シスターは、カトリック信者として『人を赦す』ということを貫いてきた方でした。私だったら、到底できないことです」

安田善三郎氏(93歳)は'16年に亡くなった渡辺和子氏(享年89)について畏敬の念を込めて語った。

陸軍教育総監・渡辺錠太郎の次女として生まれた渡辺氏は、9歳のときに青年将校らが首相官邸などを襲撃した2・26事件で、父親が目の前で銃殺された。そして、安田氏は、とどめを刺した将校・安田優の弟だ。

 

二人は、被害者と加害者の立場を超えて30年間も交流を続けてきた。渡辺氏との「想定外」の出会いを振り返る。

「2・26事件から50年後の'86年7月12日、青年将校らの遺族が毎年行ってきた法要にシスターがいらっしゃいました。私は事前に来ることは聞いていたのですが、耳を疑いました。これまで、被害者側の遺族が来たことは無かったからです。

実際に墓参されている姿を見て、いてもたってもいられなくなり、自分の素性を明かしたのです」

それから安田氏は、渡辺氏の著書を読み漁った。なぜ、父を殺した者の法要に参加できるのか、知りたかったからだ。

そして、「もう一度会いたい」という思いに駆られて、手紙を出した。

「妻とシスターのもとへ出向いて、お詫びをしました。すると『今日は、(ノートルダム清心女子大学の)学長になった日ですが、いっそう由緒ある日になりました』と言われたのです。

それから、毎年1回はシスターの故郷の北海道に行ったり、私の家に招待したりするようになりました」(安田氏)

2・26事件の話は、最初の1回きりで、それ以降は会っても他愛もない話しかしなかった。