さよならダイナマイト・キッド!初代タイガーが捧げる「最期の言葉」

過去は振り返らない。けれども…
田崎 健太 プロフィール

帰国して、佐山さんに会って、ウェイン・ブリッジの言葉を伝えると、「絶対に嫌です」と笑った。佐山さんは飛行機が大嫌いで、日本国内も陸路で移動していた。

「佐山さんが来るならば、ダイナマイトも顔を出すかもしれません」

ぼくは食い下がったが、佐山さんは首を振った。

「ダイナマイトに会いたいという気持ちはありますけど、いいです」

この頃、NHKの『アナザーストーリー』という番組でタイガーマスクの取材が進行していた。そちらからも同様の申し出があったのだが、断ったという。

 

「特別なレスラーでした」

8月、ぼくはウェイン・ブリッジが経営するパブで開かれたレスラー・レユニオンのパーティに出席した。そこにダイナマイト・キッドの姿はなかった。

NHKのカメラもパーティに入っていた。彼らはダイナマイト・キッドを取材するため交渉していると言った。しかし、難航しているという。

ぼくも彼に取材することは考えた。しかし、ダイナマイト・キッドは体調が悪く、きちんと話をすることが出来ない状態だと聞いていた。

映像は文章と「文法」が違う。話す内容はどうあれ、闘病中のキッドの姿を映し出すことは視聴者に対する強い吸引力となるだろう。彼らの幸運を祈って別れることになった。後日オンエアーを観て、彼らがキッドの取材に成功したことを知った。

『真説・佐山サトル』を書くため、佐山さんには延べ何十時間も話を聞いた。そこで知ったのは、彼は取材には協力的ではあるが、過去に興味を持っていないことだった。ダイナマイト・キッドと会いませんかという言葉に素っ気ない返事をしたのも、もはや二人の関係は過去の話であると考えているからだ。

ただし、そんな中でも誰に好感を持っていたのかは口調で分かるものだ。

佐山さんが一目置くのは、身体的能力が高く、きちんと関節技を習得しているレスラー。佐山さんの言葉を借りれば「強さが備わっているレスラー」――つまりダイナマイト・キッドのような人間である。

そのダイナマイト・キッドが、12月5日に亡くなった。彼の死を受けて、改めて連絡を取ると、佐山さんはこう言った。

「ダイナマイトは自分にとって、特別なレスラーでした。だから本当に残念です」

そして、もう一度会いたかったですね、と静かな声で付け加えた。

撮影:山本皓一
ダイナマイト・キッドとの秘話も書かれたマスターピース