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施設に預けられた娘が、それでも母親を見捨てられなかったわけ

育てられない母親たち㉒
親に捨てられた子供は、親のことをどう思っているのだろうか。親を怨むのか、それとも親を求めるのか。人それぞれに考え方は異なる。これまで子供を捨てた親について紹介してきたが、今回からは目線を変えて親によって捨てられた子供たちの人生に光を当ててみたい。

まず紹介するのは、自分を捨てた母親のことを追おうとした女性である。

妊娠した姿で帰ってきた

関西の繁華街で、坂真理子(仮名、以下登場人物はすべて仮名)は十七歳の頃から水商売を転々として生きてきた。もともとは滋賀県の田舎町の出身だった。二人姉妹の長女として生まれたが、幼い頃から人に噛みついたり、物を盗んだりと素行が悪くて有名だった。不良というわけではなかったが、小学校の高学年からは常習的に万引きをするようになり、度重なる補導から児童自立支援施設へ行ったこともあった。

中学卒業後、真理子は定時制高校へ進むが、そこでもトラブルを起こして中退。それからは家を離れ、関西の繁華街にある店の寮に暮らしながら、夜の仕事をはじめることになった。実家の両親は、幼い頃から手を焼いていたことから、彼女を完全に見捨てていた。

そんな真理子が長女の麻友を産んだのは十八歳の時だった。臨月のお腹をかかえて実家にやってきて、こう言ったのだ。

男に逃げられた。産むしかないから産む。しばらく家で暮らすから

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同じ店に勤めるボーイとの間にできた子供だったが、彼は出産の直前に失踪してしまったという。

真理子は麻友を出産した後、半年ほど実家で暮らした後、また夜の町へともどっていった。ところが、それから半年も経たずに、実家に児童相談所の職員がやってきた。そしてこう言われた。

真理子さんは、娘の麻友さんに虐待をしていました。本人は自分で育てたくないと言っていますので、ご実家で引き取っていただけないでしょうか。それが無理であれば、施設に預けることになります

麻友はまだ乳飲み子だったが、家を空けてばかりでろくに世話をせず、泣いたら泣いたらでアパートの外に放り出すようなことをしていたという。さすがに近所の人が見かねて通報したのだそうだ。

 

ストレスで血だらけに

両親は高齢だったことから引き取ることはできないと言って断った。麻友は乳児院に預けられ、それから児童養護施設へと移された。真理子はまったく面会にはいかず、両親や真理子の妹の晶子が会いに行っていた。

だが、小学校に上がって少しして麻友の様子に異変が起きた。癖で体をかきむしって血だらけにしてしまうのだ。特に腕がひどく、生傷が絶えない状態だった。医師からは家族と離れ離れに暮らしているストレスが原因だと言われた。

晶子はそんな麻友をかわいそうに思い、小学三年生の時に施設から引き取ることにした。ちょうど晶子も最初の結婚に失敗し、実家にもどっていたため、両親と三人であれば何とか面倒をみることができると考えたのだ。

実家で麻友は祖父母や晶子と暮らすようになった。この時の暮らしを麻友はふり返る。

おばあちゃん、おじいちゃんは祖父母って感じでしたけど、晶子おばさんが優しくて母親代わりでした。家ではかわいがってもらった記憶しかありません。習い事もエレクトーン、お習字、スイミングといろいろとやらせてもらいました。施設ではいつも緊張していたような感じがあったんですが、家に引き取ってもらって心から休まった気がしました。ただ、肌をかき壊してしまう癖はなかなか治りませんでしたけど……

ストレスがなくならなかったのは、実母である真理子との関係が影響していた。実家が麻友を引き取ると、真理子はたまに思い出したように遊びに来ては突然麻友をつれていくことがあった。

麻友は一度も真理子と暮らした記憶がないので、実母という認識はあるものの、「親戚みたいな存在」だった。真理子は麻友を家から連れ出すと、夜の町に彼女をつれていき、働いているナイトクラブや、友人たちとの飲み会、あるいはラブホテルのようなところにつれていったという。

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麻友はそこで見聞きした出来事をほとんど記憶していないが、「怖かったことだけは覚えている」と語る。後で祖母や晶子に聞いたところでは、麻友が繁華街に一人で置き去りにされて警察に保護されたり、叩かれて顔中を腫らして帰ってきたりしていたことがあったそうだ。

おそらく、気の向くままに子供を連れ歩き、思い通りにいかなければ虐待していたのだろう。小学五年生になって皮膚をかき壊す癖はおさまったが、今度は円形脱毛症に悩まされることになった。

麻友は言う。

実母のことは好きになれなかったし、怖いという印象しかありませんでした。でも、いつか実母のもとに返されるかもしれないという思いがずっとあって、理解しなくっちゃという気持ちがありました

しかし、真理子はそんな麻友の思いなど考えたことすらなかったのだろう。