フランス全土が怒りに震える「黄色ベストデモ」という“階級闘争”

これは国民からの正当な異議申し立てだ
髙崎 順子 プロフィール

子どもたちもデモについて考えている

歴史の学びから、フランス市民は「生きやすい社会とは、自ら手に入れるもの」との教育を受けて育つ。そのためには議論と対話が必要で、話を聞かない相手に耳を傾けさせる手段の一つが「デモ」だ。

それは自由・平等・友愛の共和国理念とともに、幼少期から学校で、家庭で、社会で、子どもたちに刷り込まれる。

今回の運動でも然り、女性誌『ル・フィガロ・マダム』は、「子どもたちにどう黄色ベスト運動を話すべきか」との記事を載せた。児童心理学者が登場し、この機に「社会で共に生きるということ」「対話を拒むと社会がどうなるか」などを話すようにアドバイスしている。

 

ちなみにこの女性誌の主要読者は黄色ベストのデモには行かない中上流層で、読者層に含まれない労働者階級の子どもたちは、親たちに連れられたデモの現場で同じことを学習している。

そんなフランスの一面を知りつつ12月1日の凱旋門破壊行動を見ると、あれは間違いなく、壊し屋たちの蛮行だと一目瞭然に理解できる。その最たる証拠が「マリアンヌ」像の破壊だ。デモをするほど社会意識の高いフランス市民(かなり多い)なら、共和国の象徴であるマリアンヌを破壊することはあり得ない。彼女は幼稚園から大学まで、子どもたちの学び舎を飾ってきたアイコンなのだ。

破壊されたマリアンヌ像〔PHOTO〕Gettyimages

政界は「デモ利用」を狙い、市民は沈静化を希望

黄色ベストの運動は農業従事者や学生、運送業者など、他のマクロン改革に不満を持つ層をも刺激し、フランス各地でデモが多発。現政権は四面楚歌状態にある。

12月4日の増税延期決定は、不満と怒りの波及を止めるための妥協策でもあるのだが、黄色ベストも野党政治家も、反政権勢力は全く納得していない。「延期して、そのあとは?廃案にならない限り同じことの繰り返しだ」と主張する。

その声に対しフィリップ首相は、12月15日〜翌年3月1日までを国民大討論期間とし、地方集会やネット討論、テレビ会議などで、この問題を話し合おうと提案した。また閣僚からは廃止した富裕税の再検討の声も上がっている。その一方、環境問題対策を旗印に、燃料税制の改革は諦めない、とも明言している。

フィリップ首相〔PHOTO〕Gettyimages

この騒動に便乗したくてたまらない野党政治家たちは、黄色ベスト運動を革命になぞらえて持ち上げるのに躍起だ。ほぼ全員が揃って燃料増税の棚上げを提案し、加えて右派・共和党は国民投票を、極左・極右は雁首を揃えて国民議会(日本の衆議院に当たる)解散総選挙を求めている。

まさにこの機を政争に持ち込まんと虎視眈眈だが、肝心の市民はそんな政治家たちを白けた目で眺める。折しも年末のクリスマスシーズン、心が踊り経済活動が最も盛んになるべき時だ。みな政権への怒りには同調しつつも、更なる過激化を恐れ、事態の沈静を願っている。

黄色ベスト運動は12月8日、再度大規模デモを計画。全国からパリへ参じる動きも見られる。この問題の幕引きには、まだまだ時間がかかりそうだ。

革命的なうねりになるか

以上ご紹介してきたように、民主主義を闘って勝ち取ってきたフランス市民のデモは、実効性のある政治行動である。日本でクローズアップされているような、一部の過激派による暴発的な事件ではない。

今フランスで起こっていることは、階級闘争だと書いた。黄色ベストの階級に属さない層は連携していないものの、彼らは、マクロン大統領への失望という意味で、黄色ベスト運動にシンパシーを抱いていることも確かだ。期待が大きかった分、失望も大きい。

黄色ベストがこのまま稚拙な内輪揉めと過激化の波に飲まれるのか、それとも他の階級と連携して運動の輪を広め、革命的なうねりを引き起こせるのか。いずれにせよマクロン大統領は就任後最大の正念場にいる。

カメラの前で派手に燃やされる車以上の、より複雑で強力な何かを、今のフランスは孕んでいる。それが日本の方々に少しでも伝わるよう、この記事が役立てたならと願ってやまない。