フランス全土が怒りに震える「黄色ベストデモ」という“階級闘争”

これは国民からの正当な異議申し立てだ
髙崎 順子 プロフィール

なぜ自動車が燃え上がったのか

黄色ベストのような反政権デモには、他にはない大きな特徴がある。Casseur(壊し屋)の存在だ。市民の怒りに端を発する反政権デモは否応無くボルテージが上がる。それに便乗し、大暴れする者たちが現れるのである。

壊し屋はフランス社会に不満を持った者、破壊を娯楽とする者らで構成され、郊外の治安不安地域から乗り込んでくると言われている。が、実際それが「どこの誰」なのかははっきりしない。

極左や極右団体が、反政権の示威行為のために雇うというまことしやかな話もある。彼らの目的は「壊すこと」なので、デモの主旨はどうでもいい。破壊の対象は鬱憤が晴れるものが好まれ、主に高級店や、派手に発火する自動車が狙われる。

デモでは車が燃やされた〔PHOTO〕Gettyimages

日本のメディアが注目しているものは、この「壊し屋」の仕業だ。フランスの一般市民は、デモで破壊行為はしない。敢えて過激行動に注目するメディアには、火事場の野次馬根性か、デモの主意とは異なる部分を伝える意図があるのではないだろうか。

とはいえ黄色ベストのデモには、「壊し屋」の存在が目立つのも事実である。前述の組織的な脆弱さを突いて、破壊目的の過激派が多く入り込んでいるようだ。内務省発表によると、11月17日からの3週間、全国での負傷者は788人、尋問を受けた人物は1603人、うち逮捕者は1387人に上った。

 

その破壊行動が政権やメディアの注目度を上げているのは皮肉でしかないが、それもあくまで、警察に届けられたデモ計画の範囲内にあるものだ。封鎖された高速料金所やデモの通過ルート以外では、通常の生活が営まれている。

より正しく言うなら、影響は出ているが、可能な限り通常を営むよう多くの市民が務めている。一部日本メディアが伝えたような「都市機能の麻痺」など、そう簡単に起こらない。起こさないための努力が、行政と市民によって払われているのだ。

そしてフランス人の7割は、政府の譲歩があるなら黄色ベスト運動は沈静化すべきだと答えている。黄色ベスト運動の過激化に対応して、反暴力と対話を訴える「赤いスカーフ」という団体も立ち上がった。

デモは「共和国」の根幹

黄色ベストによる3週間の行動を受けて、フィリップ首相は12月4日、譲歩案を見せたと先に述べた。譲歩の内容はさておき、「デモ権は、我が国の基盤をなす貴重な権利である」と、会見でその意義を確認・評価している。

デモの声を無視することは、フランスの政治家には許されない。そしてその理由は、非常に分かりやすい。それはフランスが「共和国」である、ということに尽きる。

共和国とは、1789年のフランス革命で市民が絶対王政を倒した後、作り上げた国家体制である。出自も生活レベルも様々な市民が「法の前に平等である」と認め合い、「共に和をなす」社会を目指すものだ。

フランス革命・バスティーユ牢獄の襲撃〔PHOTO〕Gettyimages

不条理な支配体制を強いる絶対王政との闘いの末、流血沙汰の反動と改革を100年近く繰り返しながら、もぎ取った勝利だ。その後も権力者による搾取の悪夢を忘れず、独裁の恐れがある政治家は容赦無く潰してきた結果、今ではどの政権も殊更に「共和国」であることを強調する。

大統領が演説の最後を必ず「フランス万歳、共和国万歳」で締めくくる作法は、その象徴とも言えるだろう。

余談だが、様々な出自の選手をまとめ上げ今年のサッカーW杯で優勝をもたらした監督ディディエ・デシャンは、優勝直後のインタビューを「フランス人であることに誇りを持っている。共和国万歳!」と締め、市民たちを大いに熱狂させた。それくらい共和国であることは、フランス人にとって重要なのだ。