フランス全土が怒りに震える「黄色ベストデモ」という“階級闘争”

これは国民からの正当な異議申し立てだ
髙崎 順子 プロフィール

これまでのデモとどこが違うのか

かくして黄色ベストの人々は各地で反政権デモを行っているが、彼らには、これまでのデモ隊とは一線を画する特徴がある。

それは右派(保守系)・左派(社会主義系)といった政治思想による団体ではなく、そのすべてが乗り入れている「庶民」という社会階級の集団ということだ。

彼らを繋ぐのは「お金が足りない」という共通の生活不安である。そしてその原因にある、「金持ち優遇の代償に搾取されること」への怒りだ。政治思想で分断されない分、素朴で強い連帯感があり、数も多い。

右派・左派がどれだけ願っても叶わなかった「思想を超えた団結」を、SNSを介し、自然発生的にやってのけたのだ。黄色ベスト運動をフランス革命に比する声は、それが庶民VS富裕層という階級闘争の形を取っていることに起因している。

黄色ベストの人々は元は善良な勤労市民のため、当初の運動も平和的で、高速道路料金所の封鎖・無料化や速度レーダーの妨害などから始まった。

道路を封鎖するデモの参加者たち〔PHOTO〕Gettyimages

「国にカネを払わなくてよくなる」穏便な行動は、黄色ベスト以外の人々にも好意的に受け入れられた。料金所の封鎖ポイントでは朝食の持ち寄りやコーヒーの無料提供などもあり、素朴な連帯意識で繋がる姿を「ご近所祭りの延長」と称する声もある。

その一方で「黄色ベスト」の庶民階級には、社会運動の基礎を学んだ高学歴者が少なく、運動を効果的に行う組織力や知識が欠けている。また様々な政治思想を持った人々が混在することから、運動を体系化する際に内輪揉めが絶えない。

その延長で足の引っ張り合いがやまず、運動開始から3週間が経った今も、政府との交渉役が定まらずにいる。知識人や管理職が多く属し、より幅広い知見や交渉力を持つ他階級との連携が見られないことも特徴だ。

 

政策系シンクタンク「ジャン=ジョレス財団」が行った電話調査によると、黄色ベスト運動への支援を示した管理職・知的自営業者はたった29%。年金生活者や失業者では半数を超え、ライン労働などの単純労働者では6割以上に至っている。

フランス人にとってデモとは何か

黄色ベストの抗議行動は、大きく分けて二つある。11月17日の運動立ち上げ当初からの料金所の封鎖と、翌18日から毎週末に行っている大規模デモだ。

第1回のデモでは、フランス全土2034箇所で約29万人が参加した。第2回11月24日は10万6千人、第3回12月1日は7万5千人と規模は縮小しているが、過激化が進んでいること、パリ凱旋門など注目度の高いところで開催されるため、ニュースバリューはどんどん上がっている。

12月1日の凱旋門付近の様子〔PHOTO〕Gettyimages

実際の政治的効果も高く、デモ開始から3週間が経過した12月4日、エドゥアール・フィリップ首相は燃料増税の延期を発表した。曰く、「市民が増税も新税も望んでいないことは、よく理解した。いかなる増税も、国民の分断を前に行う意味はない」と。

かように効果が期待できるので、フランス人は頻繁にデモをする。それは彼らにとって、権力者やメディアへの有効な意思伝達手段だ。一人ひとりの声は小さくても、集ってボリュームが上がれば、耳の痛い叫びになる。

デモとは市民の拡声器で、その効果を最大限にするために、シャンゼリゼやコンコルド広場など世界の注目が集まりやすい場所で行うのだ。そしてその声を無視することは、フランスの政治家には許されない。その理由は次項に後述する。

しかもフランス人は、かなりカジュアルにデモに参加する。子連れの顔ぶれも多い。デモの開催は警察に必ず申請されねばならず、大抵のデモは穏便に行われるためだ。数千・数万人が集まる大規模の場合は、デモ隊の前後を警察が固め、治安維持に目を光らせる。警察はデモを制圧するためではなく、それが平穏に行われるためにいる。

デモの趣旨は反政権運動に限らない。政治理念や政策への賛同や、苦難にある人々への連帯を示すものも多い。記憶に新しいところでは、100万人が参加した2013年の同性婚法制化賛成・反対デモや、パリだけで150万人が集結した2015年同時多発テロ追悼行進などがある。

2013年に行われた反同性婚デモ〔PHOTO〕Gettyimages