事件の深層! 積水ハウスはなぜ「地面師の嘘」を見抜けなかったのか

闇の犯行集団の恐ろしい正体

あなたたちは、どちらの方ですか?

2017年6月1日、当の海喜館の門前でちょっとしたイザコザがあった。

通報を受けた警視庁大崎警察署の捜査員が現場に駆けつけ、そこにいた積水ハウス工務部の担当者2人にこう声をかけた。

「あなたたちは、どちらの方ですか」

警察官からいきなりそう誰何された積水ハウスの担当者たちにはまったく事情が呑み込めない。まさに面食らった。

工務部とは文字どおり、デベロッパーが建設工事にとりかかる前に現場の調査をし、資材を調達する先発隊だ。積水ハウスの工務部の社員も、そのために現場で作業をしようとしていたのだが、そこへ警察官が現れること自体、完全な想定外だった。

「ここは持ち主からうちが買いとったんです。それで、測量を始めたところですが……」

二人の工務部員のうちの一人が、警察官にそう説明した。すると、そこへ警察へ通報した当の弁護士が割って入った。

「あんた方、何を言っているんですか。私こそ持ち主の依頼でここへ来ています」

地面師詐欺が発覚し、立ち入り禁止となった海喜館 撮影/濱崎慎治

すでに旅館の土地建物の売買契約を済ませていたはずの積水側にとっては、まさに寝耳に水だ。

「何を言っているんだ。支払いも済ませているんだよ。何の権利があって邪魔するんだ」

だが、弁護士も負けていない。

「依頼人はこの旅館を売ってないんだから、測量なんか絶対にさせないよ」

この弁護士の依頼人は、旅館の持ち主の親族だったのだ。

 

なぜ積水ハウスは詐欺を見抜けなかったのか

この日を境に、積水ハウス社内でも「騙された」という共通認識を持つに至ったわけだが、詐欺に引っかかった積水ハウスの裏側をのぞくと、大手企業にありがちなサラリーマン組織の脆さが見え隠れする。本来、現場の営業部隊は、旨い話の裏に潜む危険を警戒し、仮に疑いがあれば、手を引かなれければならない。

実際、元旅館女将のなりすまし役は取引現場で生まれ年の干支を間違えてしまった。そんな不自然な様子に気付いた不動産会社の中には、地面師の仕業を疑い、取引を中断したところもあった。

しかし積水ハウスでは、部長どころか常務や社長が前のめりになって走り続けた。仮に計画にストップをかけ、他の業者に取引をさらわれると、現場の営業マンの責任問題に発展しかねない。地面師と呼ばれる詐欺師たちは、そうしたサラリーマンの心理を読み、ことを運んだ。