地面師界の重鎮、内田マイクは逮捕されても不敵な笑みを浮かべた 撮影/蓮尾真司

事件の深層! 積水ハウスはなぜ「地面師の嘘」を見抜けなかったのか

闇の犯行集団の恐ろしい正体
不動産大手企業の積水ハウスが被害者となった前代未聞の「地面師事件」。12月には新たに容疑者の再逮捕が発表されるなど、いまだ事件の収束は見えない。不動産のプロであり、業界のリーダーでもある積水ハウスはなぜ、コロッとダマされたのか。このほど『地面師 他人の土地を売りとばす闇の詐欺集団』(講談社)を上梓したジャーナリストの森功氏が、取材で明らかになった事件の「知られざる深層」をレポートする。

地面師という闇の詐欺集団

他人の土地を自分のもののように偽って第三者に売り渡す詐欺師――。地面師という聞き慣れない言葉を大辞林はそう解説する。知能犯係の刑事たちは、地面師詐欺のことをニンベンと呼ぶ。偽物の「偽」から、捜査するときに用いる隠語として生まれた表現であり、犯人一味がニセ地主を仕立てることから、そう名付けられた。

昨今の不動産高騰に目を着けたそんな詐欺集団が東京や大阪の大都会で跳梁跋扈している。この数年、警視庁管内の詐欺被害だけでも50件はくだらないといわれており、捜査に大忙しだ。なかでも先頃摘発された「積水ハウス事件」は、取引総額70億円、55億5000万円という空前の被害額が評判になった。日本のハウスメーカー御三家の一角を占める巨大企業が造作なく騙された不動産詐欺である。

地面師たちは立地条件のいい住宅地や都心のマンション、ビル用地を狙う。ニセ地主を仕立て、もっぱら開発業者を騙して土地を売り払い何億、何十億円という代金を詐取する。なぜ日本を代表する大企業や不動産取引のプロが、詐欺被害に遭ってしまうのか。どうしてこんなにも事件が頻繁に起きているのか。誰もが抱く素朴な疑問について取材を始めたのが2016年だった。

積水ハウスが巨額地面師詐欺の被害に遭った五反田「海喜館」 撮影/濱崎慎治

取材を進めると、どの事件もまるで映画や芝居のような出来事が現実に起きている。犯行一味の頭目の描いたシナリオに沿って取引の交渉役や地主のなりすまし役が配置され、不動産のプロが罠に嵌められていく。まさに巧妙に仕組まれた犯行現場の光景が目の前に現れた。そこには、やはり理由があった。

 

五反田駅徒歩3分の超好立地

たとえば積水ハウス事件の舞台は、JR山手線五反田駅から徒歩3分の廃業旅館「海喜館」(うみきかん)の取引である。不動産業界にとって垂涎の立地条件である半面、怪しげなブローカーが持ちまわっている曰く付きの物件として知られてきた。積水ハウスの営業マンもそれくらいは承知だっただろう。が、営業部員に旅館の元女将が土地を売りたがっている、という話が持ち込まれると、マンション事業の担当部長が乗り気になった。他の大手不動産会社に聞くと、積水クラスの開発業者なら100億円未満の取引は部長決裁で進められるという。

ただし積水では、旅館跡地のマンションプロジェクトの報告が重役や社長にあげられ、社長自ら現場の元旅館視察に乗り出した。

「ぜひやりたい」

社長がそう営業部門に檄を飛ばし、担当常務がニセ地主たちとの売買交渉に立ち会った。そこでは何の疑問も抱かず、犯行グループに乗せられた。おまけに取引をふた月も前倒しし、70億円の取引総額のうち、いとも簡単に詐欺師たちへ63億円も払い込んだ。