万引きで人生台無し…やめたくてもやめられない「病気」の困難

データで見る、処罰と治療の効果
原田 隆之 プロフィール

どのような治療が可能か

窃盗症は、たしかに難治ではあるが、治る病気である。

その人の症状に合わせて、衝動や強迫的な行動傾向を制御する薬物療法を行なったり、衝動をコントロールするスキルを学ぶために認知行動療法と呼ばれる心理療法を実施したりする。これらが現在、一番エビデンスのある治療法である2

認知行動療法では、窃盗症を依存症の一種(行動依存)であるととらえ、依存症治療に準じた治療を実施する。具体的には、万引き行動の引き金を引く刺激を同定し、それに対する対処行動(コーピングスキル)を学習する。

たとえば、1人で孤独なとき、空腹時、人気のないスーパーなどが「引き金」だとすると、常に家族と行動する、ポケットにいつもキャンディーを入れておく、帰宅時のルートを固定化しスーパーやコンビニ店のない道を通るなどの対処行動が挙げられる。これらを治療者と患者の共同作業で考えながら練習する。

こうした一見、地味な取り組みの積み重ねによって、万引き衝動をコントロールするための「武器」を多くに見つけ、意志の力だけに頼らないようにすることが重要なのである。

また、治療には家族の協力が必須である。窃盗症とはどういうものか理解してもらい、どのような具体的なサポートが必要かを知ってもらうことが、本人の立ち直りを支える大きな力となる。

〔PHOTO〕iStock

なぜ処罰に効果がないか

実は、窃盗症の場合に限らず、どんな犯罪であっても処罰よりも治療のほうに大きな再犯抑制効果がある。

複数の研究を統合した大規模なデータ(メタアナリシス)によると、処罰のみの再犯抑制効果は-0.02、認知行動療法の再犯抑制効果は0.26であった3

これは、処罰のみの場合は再犯率を逆に2%増加させるのに対し、治療は再犯率を26%抑制するということを示している。

さらに、刑務所などの施設内ではなく、社会内で治療をしたときは、約35%の再犯率抑制効果がある3

このように、エビデンスを見るとその効果は一目瞭然である。また、費用対効果についても考える必要がある。

わが国の場合、刑務所で受刑者1人を1年間処遇することにかかるコストは、約400万円にもなる4。膨大な税金を投入して、再犯率をわずかではあるが上げてしまうのでは、どう考えても不合理である。

 

なぜ、刑務所は再犯率を上げてしまうのか。その理由はたくさんある。

第1に、刑務所が「犯罪の学校」となってしまい、悪い仲間ができたり、犯罪の手口を学んでしまったりすること。

第2に、受刑中に職を失ったり、家族や友人と疎遠になってしまったりすると、出所後、無職で孤独、何のサポートも得られない状態になってしまうこと。

第3に、「犯罪者である」というレッテルを周囲からはもちろん、自分自身でも貼ってしまうことによって、犯罪者としてのアイデンティティーができあがり、それがさらなる逸脱に向かわせることなどが考えられる。