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万引きで人生台無し…やめたくてもやめられない「病気」の困難

データで見る、処罰と治療の効果

原裕美子さんの判決を受けて

今年2月、元マラソン日本代表の原裕美子さんが、万引きで逮捕され、12月3日にその判決が言い渡された。

昨年8月にもコンビニ店で万引き事件を起こしており、その際は懲役1年執行猶予3年の判決を受けていた。そして今回は、その執行猶予中の再犯であった。犯罪事実としては、スーパーで382円相当のキャンディーなどを盗んだのだという。

たかがこれほどのものを万引きして人生を棒に振るような真似をするとは、何とも不可解なことだと思われた方も多いだろう。その不可解さを解く鍵は、「窃盗症」(クレプトマニア)という「病気」にある(参照「ゼロからわかるクレプトマニア」)。

執行猶予中の再犯であったため、実刑も免れないかと予想されたが、判決は懲役1年執行猶予4年というものであった。判決は、この「病気」を認定したうえで、治療を優先せよとの考えから出されたものであろうと推測されるが、実に英断だと思う。

原さんは、判決後の記者会見で、涙ながらに謝罪を口にし、同時に自ら「窃盗症」と診断されていたことを明かし、「やめたいのにやめられない」と悲痛な面持ちで語っていた。その真摯な反省の姿と「病」に苦しむ姿には、多くの人々が胸を打たれただろう。

もちろん、いくら被害金額が小さいからといって、その刑事責任を過少評価してはいけない。個人経営の小規模な店舗などでは、万引きが死活問題となるところもある。この点はしっかりと押さえておきたい。

しかし、その一方で、再犯防止という観点から見ると、このように「窃盗症」が原因となっているケースでは、処罰はほとんど役に立たないこともまた事実であり、治療を実施することにこそ効果がある。

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「窃盗症(クレプトマニア)」とは

まず、窃盗症とはどのような病気なのか、簡単に説明したい。

精神障害の診断マニュアルであるDSM-5には、「衝動制御の障害」というカテゴリーがあり、そのなかに窃盗症がリストアップされている。そこには、放火症(ピロマニア)、素行障害(少年非行)なども含まれている。

窃盗症の一番の特徴は、「個人用に用いるためでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される」1ことである。さらに、窃盗直前の緊張の高まり、実行時の快感やスリル、実行後の満足感や達成感などが特徴である。

簡単に言うと、別にほしくもないのにたわいもない物を盗んでしまうこと、そしてその衝動が抑えられないという病気であり、原さん自身が語っていたように、「やめたいのにやめられない」ところが厄介な病気である。

窃盗は、わが国の犯罪のなかでもっとも件数が多く、再犯率も非常に高い。しかし、その圧倒的大多数は窃盗症ではない。この区別は重要である。

ほとんどの窃盗は、金銭的利得のために行われるものであり、衝動がコントロールできないわけではない。したがって、判決においても、診断においても、その区別を厳密に行うことが重要となる。

 

窃盗症は、しばしばうつ病や摂食障害、自傷行為などと併発することがある。摂食障害は食行動に対する衝動が制御できないという特徴がある。

食べたいという衝動から、ときにむちゃ食いをしてしまうが、その後罪悪感に駆られて、喉の奥に指を突っ込んで嘔吐をしたり(自己誘発嘔吐)、下剤を乱用したりする。

自傷行動の場合は、孤独や不安にさいなまれ、生きていることの意味を見失いそうになったときなどに、リストカットをして、痛みを感じ、鮮血を見ることで、「生きていることの実感」を味わったり、一種の解放感を得たりすることで、次第に自傷行動に対する衝動が制御できなくなる。