シャッター街を奇跡的に甦らせた「空き店舗&空き家」再生の極意

「解体すると消失するもの」の価値とは
山口 あゆみ プロフィール

建物を残すか否かは最初に検討する

「建築家にとっては、すでに建物が建っている土地の活用を考える場合、建物を残すか、壊して新築するかは常に最初に検討すべき点です」と市原は言う。

もちろん、既存の建物が構造的に使える状態にあるかを判断する必要がある。外から見てボロボロでも、梁や柱といった部材に耐力が残っていればリノベーションは可能だ。

また、昔と今では建ぺい率をはじめ建築に関わる法律が違うので、新築すれば今よりも小さな建物になってしまう。リノベーションすれば用途に対する面積は大きくなる。

しかし、市原も仕事の上で常に古い建物を残す選択をしているわけではない。
ただ、円頓寺の魅力のひとつは、古い建物が残っていることであり、それを生かしていくことが「円頓寺らしさ」をつくっていくと考えた。

「江戸時代や明治の建物であれば、残したほうがいいことは誰にとっても明白です。しかし、昭和の建物はただのぼろい家屋にしか見えないことも多く、残すべきものと認識されていないことが多い。しかし、その建物がこの街でどういう存在で地域の人にどういう使われ方をしてきたか、そこに注目すると違った存在意義が見えてくる」

 

解体しないことで残る「人々の思い出」

たとえば今年リノベーションしてボルダリングスタジオになった建物は、昭和の時代、商店街にはよくあった大きな電気店でオーディオ関係やレコードも置いていた。演歌歌手がこの店の前で曲を歌ってデビューしたり、二階はピアノ教室になっていたりと円頓寺の人々には親しみのある建物だった。この時代のことは、まだ街の人の記憶にもぎりぎり残っている。

普通、解体工事が始まるとその建物が元は何だったのかわからなくなってしまうのが常だが、外側なり内装の一部を残していると人々の記憶から消失しない。工事中、通りがかる人が「うちの娘、昔ここにピアノを習いに来ててねえ」とか「レコードたくさん売ってたんだよ」と懐かしそうに話しかけてくることがよくあった。

解体したとたんにひとつの歴史が終わり、新築して新しい歴史が始まる。
しかし、リノベーションなら、歴史を繋いでいくことができる
エモーショナルな繋がりが生まれるのがリノベーションによる街づくりなのだ。

市原はリノベーションするときに必ず意識していることがある。

それは、その建物のもともと何のためのどんな建物だったかという「アイコン」をどこかに残すことだ。「ああ、この建物、電気屋さんだったよね」と人が想起するアイコンがなければ、エモーショナルな繋がりが消滅してしまうからだ。

かつての営みを感じさせることで、実際にはハードが変り、店主も変わっていても、人は「ここは昔から変わらないねえ」と思うものなのだ。そして、新しく街に来る客にも愛着を感じてもらうことが可能になる。

街が醸すものが変わらない。それが、円頓寺の吸引力となっているのである。

11月半ばに開催され、大賑わいとなった「パリ祭」。これも市原さんたちの発案で2013年から始まった 撮影/入江啓祐
●空き家再生のマッチングの心得
・その建物がどのような店に生まれ変わるかのイメージをもつ
・具体的な青写真、プランをもって大家と話す
・大家に決断を強要せず、自ら意義を感じて決断してもらう
●リノベーションの見極めとは
・家の持ち主にその建物を残したいという気持ちがある
・リノベーションしたほうが新築するより、その建物が活きる確信がある
・リノベーションすることで住民や客にエモーショナルな繋がりが生まれる
・梁や柱など構造的な部材に問題がない