シャッター街を奇跡的に甦らせた「空き店舗&空き家」再生の極意

「解体すると消失するもの」の価値とは
山口 あゆみ プロフィール

「自分のところは空き家」と言いたくない理由

当初着手したのは、全国で行われているのと同様の「空き家バンク」の活動だった。しかし登録物件を募集しても無駄だった。「自分のところは空き家です」と手を挙げて公開したい人はいなかったからだ。とくに名古屋人のメンタリティには合わなかった。

また、シャッターの降りている家の大家に会いにいくと「あそこは空き家じゃない。倉庫として使っとるし」と言われる。大家からすると、ただ空いているわけではないというのだ。その背後には、「こんな古い家、貸すほうが面倒だ」「いくらにもならんだろう」という意識があったのである。結果、空き家バンクは頓挫する。

そこで市原は那古野下町衆のなかに独立したチーム「ナゴノダナバンク」を立ち上げて、別な手法でアプローチすることにした。空き店舗、空き家の再活用に絞って活動を始めた。

空き家バンクの失敗から学んだことは、マッチングのやり方だ。貸す気のない大家をどうやって貸す気にするか。そこからだ。

まずは町を歩いてここはいいな、と思う空き店舗・空き家を探した。そして、ここにどんな店舗が入ったらいいかをイメージする。それもかなり具体的に。

たとえば、「いま郊外の〇〇町で知る人ぞ知るパン屋さんである××が入ったら、どういう形態で商売をするのがいいか、そうすればどんな客が来てどのぐらいの売上が見込める」という青写真を描く。必要なリノベーション工事にかかる費用を概算し、このぐらいの家賃収入が見込める、というところまで計画書をつくった。不動産の賃貸をしたことがない素人でもわかるように。そして、町の常連になった強みを生かし、大家につてのある知り合いを探して繋いでもらったのである。

事業としての可能性を具体的なプランで示し、なおかつ、新しい店が入ったときに街にとってどんな良い影響があるかを語るとかなり説得力があった。市原が円頓寺で不動産業や建築業をやっているわけではなく、ボランティアであることも信頼につながった。

 

大家さんが断れる道を残す

いま3軒の店が入る「円頓寺アパートメント」の大家である高木さんは市原が話をしにきたとき、「ああ、話にきく、街のことを一生懸命やってる人だね」と思って会ったという。

以前に古い建物を貸すことで苦労した経験のある高木さんにとって、貸す決心につながったのは、市原が提案した「僕がまるっと借りて、建物の面倒も見ながらサブリースします」というプランだった。心配の種を市原が肩代わりしてくれるということである。

もう一点、家賃収入は多くはないが、先祖が残してくれた建物を再利用して街の活性に貢献するという意義だ。

そして、大家と話をすすめるなかで、市原は決して「説得」はしない。

「大家さんに『やっぱりやめとくわ』と言える逃げ道を残しておくことが大切です。やはり最終的なリスクをとるのは大家さんですから、自らの意志として決断してもらわないと、あとがうまくいかないものなのです」

そもそも市原はどうして新築ではなく、古い建物のリノベーションにこだわるのか。
リノベーションすべき建物はどのように見極めるのか。

左のスペイン料理店が入っているのが、市原さんが高木さんから借り受けた円頓寺アパートメント。右にある「なごのや」は円頓寺商店街のさらなる発展のキーポイントとなった「宿」だ 撮影/入江啓祐