「種子法廃止」は日本の農業に「こんな悪影響」を及ぼすかもしれない

あまり議論がされていないが…
尾崎 彰一 プロフィール

「F1種」はどのように作られるのか

ここまで読むと、F1種が悪いもののように思うかもしれないが、必ずしもそうではない。 消費者ニーズや、利用目的において求められる農作物は変化するので、これだけ食が豊かになった時代では、こういった流れは止められない。

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野菜の場合、形が揃うことで箱詰めしやすく、物流コストが下がるし、色・形・食味が均質化するので商品として値付けしやすい。 外食産業で使われる食材はもちろん、スーパーマーケットに並ぶ野菜などは、均質で扱いやすく、収量の多いものが商品として求められるのだ。

一方「固定種(在来種)」は、何世代も交配を重ねて形質を安定させていくため、非常に時間がかかる上に、収量も安定しない。色や形にもバラつきが出るので、商品としては扱いにくいのだ。

ただし、採れる作物は、風味豊かな非常に濃い味で、ビタミンなどの栄養価も高い。そうしたこだわりの野菜は、篤農家と呼ばれるような農家によって栽培され、オーガニックレストランや産地直送販売、デパート、直売所などで販売・消費されている。

現在の世の中では、経済性と効率性で、固定種よりも様々なニーズに応えられるF1種が必要だったのだ。

種苗会社では、人為的に異なる品種の選抜・交配を行い、新品種となるF1種を作ってきた。実際の栽培は、種苗会社と契約している栽培農家が行っており、今や海外採種が多くを占める様になっている。

当初、F1種を作るための交配作業は、実はものすごく大変な作業であった。

ひとつひとつ手作業で開花直後の作物の葯(やく=雄しべの先の花粉が入った袋)を花粉が飛ばないようにしながらピンセットで取り除く。この作業を「除雄 (じょゆう)」といい、これで自家受粉を防ぐことができる。

雌しべだけが残されたこの作物に、別の品種の花粉をふりかけて交配し、お目当ての形質を雑種強勢で獲得するのである。

 

遺伝子異常の「種なし」株を利用

ここからが問題だ。先程出てきた「除雄」という作業は、大変な労力とコストがかかる。そこで種苗会社は、新たな方法でF1種を開発することとなる。それが、「雄性不稔(ゆうせいふねん)」株を利用する方法だ。

聞き慣れない言葉だが雄性不稔とは、突然変異や遺伝子異常で、もともと雄しべに花粉ができないものを言う。簡単に言えば、「種なし」である。雄しべに生殖能力がなく、雌しべだけが正常に機能している雄性不稔株の花は、自家受粉しないので好都合だった。

本来であれば自然淘汰される株を逆手に取った手法だ。この雄性不稔株を増やして交配作業を行えば、除雄を行う必要がない。非常に効率的なやり方を、日本やアメリカの育種家が発見したのだった。

現在では、海外の種苗大手を中心に、多くの農作物で雄性不稔を利用したF1種が作られている。 ただし、こうしてできたF1種の作物は、もともと遺伝子異常の親を持つ作物である。このような作物を摂取することによる人体への影響は、まだほとんど研究されていないに等しい。

しかも、交配のもとになる雄性不稔株は、過去に発見されたものを増殖し使っているので、世の中の農作物は、遺伝的に非常に似通ったものばかりになっている。すると、新種の病気が発生した場合などには、同じ系統の作物が全滅する可能性を否定できない。

また多国籍バイオ企業が推し進める遺伝子組み換えのF1種は、指定農薬の使用が契約上求められている。その種自身には遺伝子操作で耐性を持たせてあるので農薬は効かないが、その他の雑草や虫には効果抜群の強力な化学薬品だ。

使用する農薬は人には害がないと言われても、にわかに信じがたい。それだけ強力な薬品である以上、残留農薬の問題や土壌汚染も気になるところだ。 また、F1種は収量が多く、農家の増益につながると宣伝しているものも少なくないが、 年々土地が痩せるケースも見られ、土壌の回復が間に合わないこともあるという。

さらには、そもそも遺伝子異常の作物や遺伝子操作された作物を、世界的に栽培し続けることで、自然環境への悪影響はないのか、現時点で全く分かっていない。

また、その作物を食べ続けることで、人や家畜などの身体にどのような影響が出てくるのか、今後何十年にも渡り検証し続けなければ、その安全性は担保できない。もし将来、発育や生存に関わる大きな危険因子が見つかった場合、もう取り返しがつかないかもしれない。