会社員人生が激変した
100カ国超に展開する世界有数の広告代理店、マッキャンエリクソンに勤める松坂俊も、数年前までは、若手が打席に立てない状況に不安を感じていた。
ところが33歳の松坂は今、月のうち3週間はマレーシア、1週間は日本で働き、アジア全体の若手社員のモチベーションを上げるための業務に携わっている。経営会議にも参加し、若手の意見を経営陣に伝えている。
松坂の会社員人生がたった数年で変わったのも、やはり有志団体の設立がきっかけだった。
松坂が立ち上げた「マッキャンミレニアルズ」は、ミレニアル世代の若手社員が自分たちの作りたいものを作る場だ。現在、アジア全体で約100名が所属する。
まずは予算をかけずにコンセプトとプロトタイプを作る。クライアントを見つけるのは、モノができた後。「とにかく、自分たちの頭を使って汗を流して『何かを生み出す』過程を経験したかった。失敗の経験も含めて、僕たち若手には『打席に立つ』経験が必要だと考えたからです」と松坂。
マッキャンミレニアルズのデビュー作はAIのクリエイティブディレクター。過去のCM受賞作品を分析して最適化したCMを作るという斬新なアイデアには、すぐにスポンサーがつき、「クロレッツ」の販売元であるモンデリーズ・ジャパンと実際にCMを制作した。
このコンセプトとCMが話題になったことを追い風に、松坂は経営会議で若手の自主的活動の承認を提案した。
「マッキャンミレニアルズ」を立ち上げた時から、松坂はチームで活動することに意味があると主張してきた。1人の声では届かない提案も、若手が集まって活動しているとなれば、経営陣も話を聞いてくれると考えていたからだ。
各カンパニーのマネジメント層や経営層と何度も話し合いを重ねたことが実り、「マッキャンミレニアルズ」はホールディングス全体の承認を得、メンバーは業務内10パーセントまでをその活動に充ててよいとされた。
また、同時にこの活動をアジア各国に広げる役割をしたいと手を挙げた松坂が、現在マレーシアと日本を行き来しているのは上記の通りである。このアジア版「マッキャンミレニアルズ」では、マレーシア政府の応援を受けながら、国策に関わる新プロジェクトを進めている。

また日本でも、つい先日、パナソニック社とコラボレーションした「遺伝子レベルでくつろげる家」をコンセプトにした「ゲノムハウス」を発表した(これもやはり、「ONE JAPAN」での出会いから生まれたオープンイノベーションだ)。
経営層と話すようになった松坂は、ある事実に気づいたという。
「僕たちが感じていた危機感は、経営層にとっても重要な経営課題だったということです。まず、若手に元気がなくなっているという課題。もうひとつは、カンパニー間の壁を取り払ってホールディングスとして力を発揮しなくてはならないという課題。僕たちの活動は、その課題を解決するひとつの手段として応援してもらうことができています。電通や博報堂とはまた違った形のチャレンジができることは、僕自身もありがたく思っているし、学生にも自信を持って自社を薦められる理由のひとつになっています」