やせ細り、背中が曲がり…精神科に「薬漬け」にされた青年の最期

ルポ ブラック精神医療(4)
佐藤 光展 プロフィール

多量の薬の影響で薬剤性心筋炎や深刻な不整脈が起きていた可能性もある。一郎さんが飲んでいたリーマス(炭酸リチウム)とテグレトール(カルバマゼピン)は、「急性および慢性心筋炎の診断・治療に関するガイドライン」(日本循環器学会、日本心臓病学会など6学会合同研究班が作成)で「心筋炎を惹起する薬物」としてあげられている。だが主治医の院長は心電図を一度もとらなかった。

退院時に院長が作成した「退院時総括」に関連する「退院時看護要約」には、「2013年11月下旬頃より、背部の湾曲があり、前屈姿勢で過ごす事が多くなった。薬剤調整し、湾曲は軽減したが、前屈姿勢が続いている状態である」との記載がある。ところが院長は、2018年7月に広島地裁で開かれた民事裁判の法廷で、背部の著しい湾曲に「気づかなかった」と証言した。

 

「帰りたいです」

一郎さんは2014年3月3日、衰弱し切った状態で退院した。夜も寝ないでしゃべり続けるほどの体力は明らかに失われていた。

30歳代には見えないほど老け込んだ一郎さんを心配した美奈子さんは「家に一旦連れ帰って療養させたい」と訴えた。しかし、広島の施設は「ここに慣れるまでは自宅に帰さないようにする」との方針で、一郎さんは退院したその足で入所した。

入院中に生じた背部湾曲と体力低下、さらに睡眠薬の影響もあって、一郎さんは施設内で何度もふらついた。14日朝、ベッドから起き上がろうとして転倒し、左の眉の上を8針縫うけがを負った。頭部を激しく打った恐れがあるため、病院でCT検査を受けた。

背中が湾曲し、足取りがおぼつかない一郎さん。院長はこれに「気づかなかった」という(2014年1月20日、病院内)

18日には38.6度の熱を出し、施設職員が内科に連れて行った。一郎さんがこれまで受診したことのない医療機関だったため、医師がのどを見ようとしても口を開けなかった。インフルエンザ検査は陰性だったので、医師は通常の感冒と診断した。風邪薬と解熱用のボルタレンが処方された。美奈子さんは20日、かかりつけ医を受診させたいと施設職員に訴えたが実現しなかった。

21日の朝食後、一郎さんは「帰りたいです」「助けてください」と訴えた。23日午後9時30分、就寝前の薬を服用。ウトウトしながらも布団から何度も起き上がろうとしたが、午後11時30分に就寝した。

24日午前6時、居室を訪れた職員が声をかけても反応せず、救急車を呼んだ。すでに死後硬直があったため救急搬送はされず、警察が到着して検視を行った。着衣に乱れはなく、死因は急性心筋梗塞とされた。死亡日時は24日午前2時頃と推定された。

一郎さんの死因は本当に急性心筋梗塞だったのだろうか。抗精神病薬などの過剰な投与は致死的な不整脈を招き、患者を突然死に至らしめることがある。

一郎さんが飲んでいたコントミンの添付文書には、重大な副作用の項目に「突然死 心室頻拍」とある。先に指摘したように、心筋炎が起きていた可能性も捨て切れない。だが、美奈子さんが望んだにもかかわらず行政解剖は行われなかったため、正確な死因はわからず終いとなった。