やせ細り、背中が曲がり…精神科に「薬漬け」にされた青年の最期

ルポ ブラック精神医療(4)
佐藤 光展 プロフィール

薬の大量投与で、体重が激減

一郎さんは精神疾患を発症して入院したのではない。落ち着かなくなったのはいきなり躁病を発症したためではなく、両親の病気を原因とした生活環境の変化のためだった。一時入所する広島市内の福祉施設の関係者らが、受け入れ条件として薬物調整を求めたため、疲弊した両親は入院による調整を受け入れざるを得なかった。

ところが病院は、隔離、リュック取り上げ、ポータブルトイレでの排便強制などを行い、一郎さんをますます混乱させた。そして大声を上げたり、独語を続けたりする反応を躁状態とみなし、これを抑える目的でリーマス、エビリファイ、テグレトール(抗てんかん薬だが躁状態を抑える作用もある)を投与し続けた。さらに催眠を目的に、フルニトラゼパム、ルネスタ、ニトラゼパム、コントミンの4剤を使い続けた(頓用のレンドルミンも27回使用)。

環境変化に弱い自閉症の人に、病院で対応する医療者の苦労は容易に想像できる。状況によっては薬で抑えたり、隔離をしたりしなければならない場面もあるだろう。だが、環境変化による混乱を同じ人間として理解し、想像力と共感を持って接する努力を怠り、終始、隔離と薬でしのごうとする対応は人権無視も甚だしく、到底容認できない。

 

入院時に60キロあった一郎さんの体重は、退院時には47キロと13キロも激減した。筋力が著しく衰えたかのように足元がふらつき、「転倒しそうで怖かった」と美奈子さんは振り返る。病院はこの異様な減量について「糖尿病の治療のため」と美奈子さんに説明した。

だが、2010年頃に基準値を超えた一郎さんの血糖値は、子供の時から診ている内科医の勧めで70キロ台から60キロ台に体重を絞ったことと、薬の効果もあって落ち着いていた。入院直後の血液検査では、ヘモグロビンA1cは6.0%で基準値内。空腹時血糖も96㎎/dlで基準値内に収まっていた。

従来の治療で血糖はコントロールできていたのに、なぜ健康を害しかねないほどのさらなる減量を短期間に強いたのか。向精神薬の中には血糖値が跳ね上がるものもあるため、用心したのだろうか。一番の糖尿病対策は食事と運動だが、一郎さんを隔離部屋に閉じ込め続けた病院が、継続的な運動療法を行った形跡はない。

食事も隔離部屋で摂らなければならなかった。一郎さん(身長158㎝。標準体重は55㎏)の栄養状態を評価した病院の管理栄養士は、隔離部屋生活での一郎さんの必要エネルギーは1日1900kcalと推定した。食事は介助もあってほとんど食べていたようなので、推定摂取エネルギーは2000~2100kcalだった。それなのになぜ、体重は標準を著しく下回るまで減り続けたのか。

院長は「気づかなかった」と証言

抗精神病薬を多く摂取し続けると、筋肉の強張り、背中や首などが曲がるジストニア、手足の震え、落ち着いて座っていられないアカシジアなどの副作用が高頻度で生じる。これらは錐体外路症状と呼ばれる。

一郎さんに突然表れた背部の湾曲は、錐体外路症状と見るのが自然だ。さらに、筋肉の激しい硬直が続くと筋肉組織が壊れる横紋筋融解症が引き起こされることもある。筋肉が衰えるので長期に及ぶと体重は減少し、悪化すると腎障害などで死亡する危険がある。

横紋筋融解症が起こると、血液検査でCK(クレアチンキナーゼ)値が急上昇する。実際、入院期間の前半に一郎さんのCK値は高値を続け、2013年12月の検査では2632U/I(男性の正常値は62~287U/I)に達した。CK値は激しい運動後にも上昇するが、狭い隔離部屋で鎮静の薬を多く投与された一郎さんが激しい運動を続けるとは考えにくい。看護記録にもそのような記載はない。