精神科の「隔離と薬漬け」の末に亡くなった、38歳男性と両親の無念

ルポ ブラック精神医療(3)
佐藤 光展 プロフィール

なぜこんなにも痩せて背中が曲がったのか。美奈子さんの問いにA指導員は「痩せたのは糖尿病のカロリー制限のためです。痩せて胸の前の脂肪がなくなり、支えがなくなったので、もともと短い首が前に傾いたのです」と答えた。こんな非科学的な説明に納得できるはずもなく、主治医の院長に面会を求めたが、多忙を理由に会うことはできなかった。

以後、美奈子さんは何度も院長との面会を求めた。しかし、いつも「会議」などとかわされて会えず、3月の退院時の見送りにもやって来なかった。治療経過も副作用についても、院長には最後まで話を聞けなかった。

一郎さんの死後、カルテ開示のため病院を訪れた美奈子さんが、診察室前で見かけた院長に短時間でも話を聞こうと声をかけると、院長は驚いて逃げ出し、2階の自室に鍵をかけて立てこもった。

10分ほど待っても出て来ないため、仕方なく1階に降りて診察室前で待っていると、再び現れた院長は美奈子さんがいることにまたも驚き、今度は廊下から外に逃れた。当時は整地されていなかった土の空き地をすごい速さで駆け抜け、別棟に消えた。

美奈子さんは110番通報された。事情を話すと警察官は同情してくれたが、院長の話を聞けぬまま立ち去らざるを得なかった。

 

「隔離しない」はウソだった

話を一郎さんの入院中に戻そう。2014年1月18日、美奈子さんは再び面会に行った。A指導員は忙しいのか姿を見せず、対応したのは初対面の若い看護師だった。面談室が塞がっていたため一郎さんがいる観察室に案内され、中で会った。

面会を終えて観察室から出た時、看護師はどこからともなく合鍵の束を取り出し、自然な動作でドアの鍵をかけた。驚いた美奈子さんが「鍵はかけない約束です。なぜかけるんですか」と問いただすと、看護師は慌てた様子で「今は隣の部屋の人が入ってくるといけないので」と言い開きした。

看護師のおかしな言動に不信感を募らせた美奈子さんは帰宅後、A指導員にファクスを送った。A指導員と連絡を取りたい時は、なぜか最初にファクスを送ることになっていた。しばらくして電話があり、「隔離しているんですか。隔離しないというのは嘘だったんですか」と問うと、A指導員は「いつもしているわけではありません。必要な時だけです」とたどたどしい口調で答えた。

ところがこの病院は、入院初日(2013年10月16日)から退院日(2014年3月3日)まで、一郎さんをずっと個室隔離して多剤投薬を続けていた。その事実は、一郎さんが3月24日に突然死し、美奈子さんが病院のカルテや看護記録を入手して初めてわかったことだった。

「まさかずっと隔離して薬漬けにしているなんて。隔離して状態を悪化させるくらいなら、私がどうなろうと家で見続けます。薬物調整中はずっと隔離すると言うのなら、前の精神科病院の時のように拒否して連れ帰るつもりでしたし、病院にもそのように伝えていました。なぜ嘘をついてまで受け入れたのか全くわかりません。A指導員や病院を信じてしまった私がバカでした。悔やんでも悔やみ切れない」

一郎さんがやせ細っていく様子に不信感を募らせた美奈子さんは「もう連れて帰ります」と訴えたこともあったが、病院に拒まれた。

「強制入院ではない。病院が何と言おうと連れ帰っていれば……」

息子を守れなかった自分を美奈子さんは責め続けている。

(後編「やせ細り、背中が曲がり…精神科に『薬漬け』にされた青年の最期」につづく)

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