ライザップが「禁じ手」に走った構造的理由

その原因は日本経済にあり
加谷 珪一 プロフィール

良くも悪くも「瀬戸商店」

M&Aという手法は、業容拡大を短期間で成し遂げることを目的に実施される。既存の製品やサービスのシェアを高めたり、新しい技術を開発するには、それなりの時間が必要となる。もし資金が十分にあるならば、すでに存在している事業や技術を買ってしまえば、その分だけ時間を節約できる。M&Aについて「お金で時間を買う」としばしば説明されるのはそのためだ。

買収対象となるのは、自社の既存事業と関連ある分野というのが一般的なセオリーである。自社の事業と関係ない企業を買っても、既存事業とのシナジー効果を得ることができないからである。

果敢なM&Aで業容を拡大した企業としては、古くは松下電器産業(現パナソニック)や、最近では日本電産が有名だが、日本電産はもともとモーターの会社なので、常にモーターに関連する企業を買収してきた。コンビニ大手のファミリーマートとサークルKサンクスも合併を実現したが、2社の店舗を合算することでトップのセブン-イレブンに近づくことが目的である。

松下は果敢なM&Aで業容を拡大した〔PHOTO〕Gettyimages

ところがライザップは、本業とは関係のない企業を次々と買収しており、本業が何なのかもはっきりしなくなっている。小さな事業体が多数、集まった一種のコングロマリットのような状況だが、こうしたスタイルのM&Aを実施する会社は上場企業としては非常に珍しい。

そもそも買収対象の分野が異なると、買収の目利きや買収後のリストラなど、それぞれに専門家が必要となり、人材を確保するのが難しくなる。こうした困難なM&Aが実現できていたのは、ライザップが創業社長である瀬戸健氏によるワンマン経営だったからである。ライザップは良くも悪くも「瀬戸商店」であり、これまでのM&Aはすべて瀬戸氏の個人的な能力で実現したといってよい。

会社を経営した経験がない人にはピンこない話かもしれないが、会社経営のノウハウというのは実は業種にほとんど関係しない。

飲食店を上手に経営できる人は、英会話学校の経営もできる。かつて米国の名門IT企業IBMを復活させた名経営者であるルイス・ガースナー氏は、カード会社、食品会社、IT企業と渡り歩いたが、すべての経営に成功している(カード会社は部門責任者)。専門性が云々というのは、あくまで従業員レベルの話である。

 

異業種の企業を買い続けた理由は「日本経済」

瀬戸氏の経営能力をもってすれば、業績不振で沈んでいても復活の可能性がある会社を見つけ出し、短期間でリストラすることが可能だったかもしれない。だが1人がカバーできる範囲というものには限界があり、いくら瀬戸氏でもすべての買収先についてコミットすることは物理的に不可能である。

ソフトバンクグループの孫正義社長のように、あれだけ巨大な企業になっても個人商店的な経営が持続するところもあるが、同社は例外中の例外といってよいだろう。今回の業績悪化は、いよいよ瀬戸氏1人ではマネジメントできなくなった結果であり、特に驚くべきことではない。

では、瀬戸氏はなぜ同業のM&Aを実施せず、異業種の企業を買い続けたのだろうか。

おそらくだが、瀬戸氏は日本経済の現状や市場環境を皮膚感覚で理解しており、異業種M&Aの方が有利と判断したものと考えられる。

先にも述べたように、M&Aを実施するなら同業を狙い、市場でのシェアを高める方が有利だし、それが経営学的な常識である。だが経済が長期にわたって停滞し、市場そのものが活力をなくしている場合、同業のM&Aは裏目に出ることがある。財務の悪化リスクを冒して競合を買収しても、市場が拡大しない中では、ボリュームメリットにも限界があるからだ。日本市場で業界再編がなかなか起こらないことにはこうした背景がある。