帝王切開の「帝王」って誰のこと? 語源から意外な真実が分かった

今日から使える「へぇ~」な話

ドイツ語では「Kaiserschnitt」

海外の文学作品は、日本でも広く親しまれている。海の向こうから渡ってきた数々の言葉に、胸を打たれた経験のある人は多いだろう。

だが、その言葉は果たして、生みの親の意図通りに理解されているだろうか。海を渡り続けた挙げ句、思わぬ「地位」を与えられたある言葉の例を紹介しよう。

「帝王切開」と聞けば、多くの人が「子宮切開によって胎児を取り出す手術」を思い浮かべるだろう。だが、よく考えてみると、この手術法の何が「帝王」なのか、さっぱりわからない。

帝王切開は19世紀、ドイツから伝来した。ドイツ語ではKaiserschnittといい、このうちKaiser(カイザー)が皇帝を意味する。これは、かの高名なユリウス・カエサルを語源とした言葉だ。

ユリウス・カエサルの像(Photo by iStock)

一般的に、カエサルが切開によって生まれたこともあわせて、「帝王切開」と名付けたと言われている。だが、これは誤り。

彼が生まれた紀元前一世紀当時、切開による分娩は母親が死亡した際の緊急手段だった。彼の母親は出産後も生きており、矛盾が生じるのだ。

では、なぜこのような物々しい名前が付けられたのか。それを知るには、もう少し語源をさかのぼる必要がある。

軽い気持ちで付けたのかも

16世紀、成立したばかりのこの手術法はラテン語でsectio caesareaと呼ばれていた。sectioとcaesareaという言葉はともに「切開する」という意味がある。無理に日本語に訳せば「切開分娩」といったところだろう。

 

この手術法がドイツにやってきたとき、医師は同じ意味が連なっている奇妙な単語の解釈に苦心する。結果、caesareaをカエサル、つまり皇帝のことであると誤訳してしまったのだ。

最初にこの手術をした人は、「切開手術だから」と軽い気持ちで名付けたのかもしれない。

だが現在、日本の医師の間では、「切開分娩」のことを指して「帝王」と呼ぶ。まさか500年後の遠い国で、自分の生み出した手術が「帝位」についているとは……。「誤訳」とは、何とも味わい深いものである。(森)

『週刊現代』2018年12月15日号より