チンタオサウルスの骨格 Photo by Kumiko / Frickr

発掘から70年でも大論争! 有名恐竜の「頭のアレ」問題とは

どうしてチンタオなのか?
安田峰俊さんの好評連載「恐竜大陸をゆく」。今回は頭についた謎の突起で知られる「チンタオサウルス」をご紹介。このメジャー恐竜、発見から60年を経て、意外な動きがあったといいますが……。

恐竜について調べるのは楽しいのだが、中国ならではの楽しみかたもある。

なかでも近年の王道は、熱河層群などの羽毛恐竜の出土化石に代表される最新の発掘・研究動向をフォローして、恐竜学が目の前で塗り替えられていくダイナミズムに心を躍らせることだ。

しかし、筆者としてはもうひとつの楽しみを紹介したい。それは中国の恐竜の発掘史を知ることだ。

特に中国社会が本格的に経済発展をはじめる前(1980年代以前)の恐竜発見は、激動の中国近現代史と縁が深いエピソードが多くてお気に入りである。

そこで今回はあえて、中国の恐竜の最古参格であるチンタオサウルスを紹介する。研究史のなかでも発掘史がきわめて興味深いからだ。

最初は「譚先生の恐竜」

チンタオサウルスは白亜紀後期に生息した体長8〜10メートルほどのハドロサウルスの仲間(Hadrosauridae)だ。山東省で青島市の北東の隣、莱陽(Lai yang)市を中心に複数の化石が発掘されている。

莱陽周辺に中生代の地層が広がっていることを発見したのは、中国地質学の草分け的存在である譚錫疇(H.C.Tan、1892~1952)先生だ。

譚錫疇譚錫疇先生

1922〜23年、中華民国農商部地質研究所の調査員だった譚先生は莱陽の地質調査をおこない、恐竜らしき骨を含めて、魚類や昆虫・植物などの化石を大量に発見した。

ここで見つかった恐竜化石は、1929年にスウェーデンの古生物学者カール・ワイマン(Carl Wiman)によって研究され、ハドロサウルスの仲間の「タニウス・シネンシス(Tanius sinensis;中国譚氏龍)」として報告された。「タニウス」の由来はもちろん、発見者の譚先生にちなんだものだ。

タニウス・シネンシスタニウス・シネンシス Illustration by FunkMonk

やがて山東省の地層は、本連載ではお馴染みである中国古生物学の泰斗・楊鍾健(C.C.Young)博士からも注目されはじめる。

1934年から翌年にかけて、楊博士は山東省を2回訪れ、このときは新生代の哺乳類や植物・魚類・両生類の化石を採集した。

中国の古生物研究が端緒についたばかりの当時、山東省は中国内地でも有数の古生物化石の宝庫であろうとみなされた。だが、その後の日中戦争と社会主義革命の勃発で、なかなか研究を進められない暗い時代が続いた。

楊博士は日中戦争中にも疎開の過程で山東省を訪れているが、このときはさすがに深い研究はできなかったようである。