今年7月ごろ、輸出が禁止されている和牛の受精卵が中国に持ち出され、流出しかけていたことが発覚した。中国入国時に見つかり、かろうじて未遂に終わったが、国内の検査体制の甘さを示すことになった。
2月の韓国・平昌五輪を機に注目された「韓国産イチゴ」の例を見てもわかる通り、近年、日本のブランド農産物を海外で模倣しようとする動きが相次いでいる。
先月末に明らかになった流出未遂は、自称大阪在住の男性が港で中国に向けて出港する際に、本来必要な申告がないまま和牛の受精卵を持ち出そうとしたが、中国の税関で発見され持ち込めなかったというもの。
和牛の受精卵や精液、卵子は家畜伝染予防法上、国外に持ち出せない。同法は和牛に限らず、動物やその一部を持ち出す際には動物検疫所に申告することを定めているが、自主申告にとどまっている。
空港や港の乗客の荷物を全て直接改めることは非現実的なため、事実上、国外持ち出しを防ぐ手段は搭乗時の空港会社や船会社によるX線検査のみとなる。
しかし今回のケースでは、日本国内のX線検査をすり抜けていた。動物検疫所が発表した広報資料の写真によると、受精卵を入れていた「ドライシッパー」と呼ばれる冷蔵容器は、高さ40cm程度の小型のドラム缶のような大きさがあるうえ、内部には受精卵を入れたストローが数百本詰まっていた。X線検査で不審な荷物として発見されなかったのは、見落としがあったと言われても仕方がない。
さらに、中国から帰国した男性は「知人に頼まれた。違法なものとは知らなかった」と検疫所に説明し、解放された。麻薬や銃器などと違い、動物の種の流出を処罰するには検疫所が刑事告発するしかないが、悪質性の裏付けは難しく、実際に告発されるのはごく少数にとどまる。
畜産業界の関係者の間では「今回はたまたま中国当局が見つけてくれたからいいようなもので、もし流出したら私たちの努力が台無しだ。表に出ていないだけで、これまでも流出していたのではないか」と、検査体制の甘さを懸念する声が高まっている。
実はすでに、和牛の「海外流出」は過去に発生している。1990年代にアメリカを経由してオーストラリアに渡った例が有名だ。当時は、アメリカに対して和牛の成体などを輸出できたことが理由だが、豪州ではすでに現地産の和牛が「WAGYU」としてのブランドを確立している。
豪州は日本で2001年にBSEが発生して以降、17年ぶりに今年5月、日本産の和牛の輸入を解禁した。しかし、オーストラリアの大規模な牧場で飼育された「WAGYU」は日本の和牛よりも価格がはるかに安く、主にインドネシアなど東南アジアにも輸出され人気を博している。「WAGYUといえばオーストラリア産」という現状があるのだ。
日本の和牛は黒毛和種、褐毛(あかげ)和種、無角和種、日本短角種の4品種とその交雑種のみを指し、ホルスタインなどの国内で育った外来牛も含む「国産牛」とは、厳格に区別されている。全国和牛登録協会が認定するもので、両親とも和牛認定を受けていなければならない。
これに対し、オーストラリアでは両親のどちらかが「WAGYU」であると同国内で認定されたものであれば、「WAGYU」と名乗れるようになっており、ブランド認定のハードルが低くなっている。この違いも、「WAGYU」の流通量を拡大させた要因となっている。