# マネジメント

まだ、リーダーシップを「引っ張ること」だと勘違いしていませんか?

バーのママの即席リーダー塾(1)
河合 太介 プロフィール

肩書を社内で使うのは、自分に力がない証拠

ママ:そうよね。その中でも、私が魅力を感じないのは、肩書で仕事をしようとする人ね。

高野:ダメなんですかね?

ママ:時には肩書をうまく使ったほうがいいときも、ビジネスの場面ではあるわよね。でもね、部下に対して肩書でものを言わせるのは、どうかと思うの。

高野:どうしてですかね?

ママ:だって悲しいことよ。そういう人って、自分は腕力不足ですって言って歩いているようなものじゃない。自分の腕力に頼ろうとしても、それだと部下が従ってくれない。その腕力不足を補うために、「肩書」という見せかけの腕力を借りて、それで従わせようとするわけだからね。ずるいなあこの人って、という気持ちになるわよ。もちろん部下の人はそう思っていても「ずるいですよ、肩書で脅すなんて」とは言えないわよね。でも、心の中ではその人の指示や命令に納得していないでしょうね。

 

高野:いや~参ったなあ。自分は若くして課長になったので、若いからみんな従ってくれないのかなと悩んだときがあったんですよ。やっぱり、舐められてたくなかったので、自分を大きく見せたくって仕方がなかったんです。それで振り返ってみると、結果的には、けっこう、肩書を使って部下に物言わせているところがありました。

例えば、意見がなかなか合わないときは、最後には「あのさ、どっちが上司なの」とか「課長は俺だけど」とか言って、強引に自分の意見を飲ませたり、通したり。

部長会や役員会に呼ばれたことを、さりげなく自慢したり、「その仕事の手伝いで課長である俺は忙しいんだよ、今」、みたいなふうに偉ぶってみたり。

すごく恥ずかしいです。うわ~、顔から火が出そうですよ~

不機嫌そうなのは上司風を吹かせるため?

佐藤:いやー恥ずかしながら俺もだよ。俺のほうがたちが悪いよ。あんまりにも恥ずかしいから、黙ってやり過ごそうとしたんだけど、俺より若い高野さんが素直に反省している姿を見て、ちょっと熱くなってきちゃったよ。

俺もね、威厳を見せたかったのかな。会議なんかのときに、偉ぶってわざと不機嫌そうに座ってみたりさ。反論のための反論のようなことを言って、部下のアイデアや提案を否定して見せたりさ。あるいは、査定に響くぞとか、評価を匂わすようなことを言ったりさ。いつも、ではなかったと自分では信じたいけど、ときどきそんなふうなふるまいをしていた自分が確かにあったよ。

さらに俺の場合は、肩書を都合よく利用している自分にうすうす気づいていた。本当は良くないよなと心のどこかで言っているところが自分の中にあることを知っていた。だからなおさらたちが悪い。

だけど仕方ない。俺の力不足のせいで、どうにもこうにも、部下たちが思うように動いてくれないから、肩書の力を使わざるを得なかった。情けないよなあ。

会社の管理職研修も、いつも気持ち半分で参加していたよ。こちとら何年管理職をやっていると思っているんだ、何を今さら学ぶことがあるのかと。

でも、考えてみれば、本当はできていない自分を正面から見たくなかっただけなんだろうな。

まったく馬鹿だったよな俺は。物事には何だってコツというものがあるはずだ。料理だって、スポーツだって、何だってそうだ。コツがあって、コツを素直に学んで、習得するのが肝心だ。そういう奴には勝てない。

例えば、俺は学生時代の一人暮らしのときからもう何十回もオムレツ焼いているけど、自画自賛して「美味しい」なんて言うだけで、実際のところいつまでたってもたいしたことない。コツをマスターしているプロの焼くオムレツには永久に勝てない。

リーダーシップについても同じだ。俺はリーダーシップについて、そのコツを知ろうともしなかった。

ひょっとしたら会社の研修とやらで学んだかもしれないけれど、「それはそれ。俺は俺」って考えて、ちっともやろうとしなかった。

あるいはせっかくいいコツを聞いたかもしれないのに、「現実はそんな甘いものじゃないでしょ」とか「それは理想だよなあ」とかなんとか頭の中で否定の言葉をつぶやいて、やってみようとしなかった。

でも、俺のやり方っていうのは、『引っ張る』をはき違えて部下と腕力勝負をしていたに過ぎないし、おまけにその勝負に勝つために、時には肩書の力を使うような『歪んだ』引っ張るをやってきたわけだ。

こんな上司と部下の関係で、職場に来て毎日一緒に仕事をやっていたら、誰も幸せにならないよなあ。俺も部下も、みんなストレスがたまってしょうがないはずだ。

いや~、ママありがとう。高野さんも牧村さんもありがとう。この歳になってようやく素直に気づかせてもらったよ。

一気に話すと、佐藤はグラスに残っていたワインをグッと一口で飲み干した。自分が傷つきたくないために長年向き合うことを避けてきた自己矛盾を吐き出したせいか、不思議と佐藤の顔は、つきものが取れたような表情になっていた。