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人類は一夫一婦制に向いていないのか

進化論から導かれた答えは……!?

人類が進化したのは一夫一婦制になったから?

私は先日、人類史の本(『絶滅の人類史』NHK新書)を出させていただいた。その本の中で、人類が類人猿から分岐するキッカケとなったのは、人類が一夫一婦制に近い配偶形態をとるようになったからである、という説を紹介した。

その後、いろいろな人(多くは私の個人的な友人)から、その説に対する不満を聞かされた。

「あれは、お前の願望が入ってるんじゃないか?」

「俺は、あんな説は認めないぞ」

みたいなことを、酒の席などで何度も言われたのだ。

もちろん、この説は私のオリジナルではない。人類史の分野における有力な説だ。少し長くなるが、それは、だいたいこんな説である。

環境が乾燥化することによって、森林が縮小した。そのため、ある類人猿のグループは、木がまばらにしか生えていない疎林に住まざるを得なくなった。

だが、疎林には食料が少ないので、食料を探すためには広い範囲を歩き回らなくてはならない。それは、とくに子育てをしているメスにとっては、大きな問題だ。食料が子の分まで必要なのに、子を連れていては食料を探し回ることが難しいからだ。

しかし、もしメスや子に食料を運んでくれるオスがいれば、この問題は解決する。子はちゃんと食事ができて、すくすくと育つだろう。

さて、こういうオスは、どういうときに進化するだろうか。ゴリラのように一夫多妻制であれば、メスや子の数が多いので、1頭のオスがそれぞれのメスや子に食料を運んでくることは考えにくい。

チンパンジーのように多夫多妻であれば、オスにはどの子が自分の子か他人の子か区別できない。だから、もしオスが、メスや子に食料を運べば、自分の子も他人の子もすくすくと育つことになる。これでは、食料を運ばないオスが得をしてしまう。食料を運ぶオスは、食料を探すのにエネルギーを使ったり、危険を冒したりする分、損をするのだ。だから、食料を運ぶオスは進化しない。

【写真】ゴリラとチンパンジー
  一夫多妻制のゴリラ(左)では、1頭のオスがそれぞれのメスや子に食料を運んでくることは考えにくい。多夫多妻のチンパンジーでは、食料を運ぶオスは進化しない  photos by gettyimages

しかし、一夫一婦制であれば、どれが自分の子かオスにわかる。だから、自分の子に食料を運んでこれるので、他人の子より、自分の子がすくすくと育つ。そうして育った自分の子は、自分に似ているので、またメスや子に食料を運ぶオスに育つ可能性が高い。こうして、一夫一婦制の場合は、食料を運ぶオスが進化することになる。

こういう何百万年も昔の行動は、推測するのがなかなか難しい。とはいえ、直立二足歩行をすれば、手でものを運ぶのに便利だろう。一夫一婦制になれば、オス同士の争いが減るので犬歯が小さくなるだろう。ヒトには発情期がないので、交尾できるメスとオスの数がほぼ同じになり、やはり、オス同士の争いが減るだろう。そういう状況証拠がいくつもあるので、類人猿から分かれて人類が進化した理由を説明する説としては、現在もっとも有力な説となっている。

しかし、先ほど述べたように、「人類が類人猿から分かれたのは、一夫一婦制の傾向があったから」という説は、かなりの人にとって抵抗があるらしい(もっとも、たまたま私の友人に、不埒な輩が多いだけかもしれないけれど)。

それに加えて、「人類は一夫一婦制に向いていない」という内容の書籍も、結構書店に並んでいる。人類が一夫一婦制に向いていないというのは、それなりに人気のある考えのようだ。それでは、どういう根拠で、人類は一夫一婦制に向いていないと主張されているのだろうか。

【写真】カップル〜ヒトは一夫一婦制に向いてない?
  人類は一夫一婦制に向いていない? photo by gettyimages