EU離脱交渉ついに決着…「最悪のシナリオは回避」と考える理由

決裂寸前から急展開だったが…
笠原 敏彦 プロフィール

ブレグジット問題の源流

最後に、EUとの合意案をまとめたメイ首相の評価について触れたい。

メイ首相がまとめた合意案に対しては、「残留派と離脱派の双方を満足させていない」(ブレア元首相)などと、厳しい批判が巻き起こっている。

確かに、メイ首相の交渉姿勢は当初の「悪い合意なら、合意なしの離脱の方がましである」という強硬姿勢から随分と変節した。

強硬離脱派にとっては腹の虫がおさまらないという心情も理解できる。そもそも、2017年6月に必要もない解散総選挙に打って出て保守党の議席を減らしたことからして許せないだろう。

しかし、未だに離脱支持と残留支持が拮抗するような世論の分裂状況において、どちらか一方だけを満足させるような合意案をまとめることは現実的ではない。

この点において、双方からの批判は、メイ首相が最終的に双方のバランスを図ったことの証である。逆に、そうしなければ議会を通過する可能性は微塵もなかっただろう。

筆者には、合意案はイギリス的現実主義の産物であるように見える。

 

そして、印象深いのは、メイ首相が非難噴出の議会で3時間にも渡り、議員の批判を受けながら、質問に答え続けていた姿だ。

ブレグジットという選択、合意案への評価は別にして、議会制民主主義の手続きはきちんと踏まれているのである。

日本の安倍政権下の政治状況、入管法改正案などでまともな議論もなく採決強行が繰り返されている現状に比べると、イギリスでは少なくとも民主主義は機能しているという側面が強調されて見えてくるのである。

余談ではあるが、日本人が忘れてはならないのは、ブレグジット問題の源流も労働移民問題であったということだ。

〔PHOTO〕gettyimages

政治的安定と社会的穏やかさ

筆者のような見方は恐らく少数派だろう。そう思っている中で、我が意を得たりと思える記事に出合った。

英フィナンシャルタイムズの著名コラムニスト、ギデオン・ラクマン氏の記事である。

残留支持派として、メイ首相を批判してきたラクマン氏の記事「なぜテリーザ・メイ首相の合意案は支持に値するか」から一部を引用してこの原稿を終えたい。

“首相は、根気強さ、現実主義、打ちのめされても立ち上がる気力というイギリス人が敬服する特質を示した……この合意案は、何が可能なのかという現実主義に基づく妥協である……残留支持者として、EUを去ることによりイギリスは価値あるものを失うと固く信じているが、しかし、EU加盟よりもさらに大切なものもある……それは、政治的安定と社会的穏やかさというこの国の伝統である……メイ首相は的確に、(ブレグジット問題を越えて)もう前へ進むべきときだという国民の思いを認識している”
ふしぎなイギリス