EU離脱交渉ついに決着…「最悪のシナリオは回避」と考える理由

決裂寸前から急展開だったが…
笠原 敏彦 プロフィール

イギリスが協定案にどう対応するか

離脱交渉を現時点で総括すると、イギリスのEU拠出金(手切れ金)問題が最大の難題などと騒がれていた当初は「泥沼の離婚劇」にも例えられていたが、「協議離婚」が成立したということだろう。

見方は割れるところだろうが、筆者は、交渉の最終局面ではEU側の譲歩が大きかったとみる。そして、EUは今や、交渉での対立的な姿勢を180度転換し、イギリス議会での協定案承認という難題に立ち向かうメイ首相を結束して支える立場を鮮明にしている。

「破局的な離別」は避けたいというEUの本音が最終局面で明示されたのである。

このEUの姿勢は、主戦場が再びイギリス国内に戻ったブレグジット問題の今後を占う上で大きな意味を持つものだろう。

ここから、イギリスが協定案にどう対応するかを展望してみたい。

 

メイ首相が描くシナリオ

【議会通過の見通し】
イギリス下院(定数650)の勢力図は、与党・保守党315議席▽閣外協力する北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)10議席▽労働党257議席、などとなっている。

下院の過半数は諸事情から現在は320である。

各種報道によると、与党側だけでも保守党の強硬離脱派と、反対を表明しているDUPを合わせて80~90人が造反する見通しで、少なくとも12月11日の最初の採決では否決される可能性が濃厚という。

しかし、労働党は反対を表明しているものの、左翼的なコービン党首の下で党は分裂しており、主流派である中道勢力から一定の造反者が出るのは確実である。

〔PHOTO〕gettyimages

こうした状況下、メイ首相が承認へ一縷の望みを託すのは次のようなシナリオだ。

説得不可能とみられる強硬離脱派約40人を除く大半の与党側議員から支持を取り付け、さらに労働党などから40人近い造反者を引き込み、ぎりぎり過半数を確保する。

そして、この算術は決して無謀とは言えないのである。なぜか?

それは、650の下院選挙区の動向に関わることだ。全国的な平均である世論調査の結果と、各選挙区の動向は必ずしも一致しないという選挙数字のマジックである。

2016年6月のEU国民投票の結果を見ると、全体の6割に相当する401選挙区で離脱支持が過半数を上回っているのである。ちなみに、国民投票の結果は、離脱支持51.9%、残留支持48.1%だった。

各議員が地元選挙区の意向を無視できないのは言うまでもない。

この実情を背景に、メイ首相が議会採決に向けた孤高とも言えるキャンペーンで訴えているのは次のようなことである。

離脱協定案を支持する以外の選択肢は、「合意なき離脱」で経済・社会が大混乱するか、残留派の盛り返しにより離脱自体が起こらないことだ。

メイ首相は議会の頭越しに国民や経済界に支持を呼び掛け、議員には選挙区の声に耳を傾けろ、という戦術を展開しているのである。

筆者は、「メイ降ろし」の機運、危機が盛り上がっては消えていったこれまでの経緯を踏まえると、議会が1度目の投票で承認する可能性はあると見ている。