EU離脱交渉ついに決着…「最悪のシナリオは回避」と考える理由

決裂寸前から急展開だったが…
笠原 敏彦 プロフィール

EUは最終局面で理念を曲げて、イギリス全体を関税同盟に残留させる保証策を受け入れた。ただし、一つの条件を付けた。「イギリスは一方的に関税同盟を離脱できない」という条件である。

つまり、国境管理を復活させないための「保証策の保証策」である。

この妥協策は一見、離脱後のイギリスが「人の移動の自由(移民)は規制できるようになる一方で、EUの単一市場にもアクセスできる」という、まさにイギリスのいいとこ取りそのものに見える。

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しかし、事情が複雑なのは、イギリスの強硬離脱派が猛反発している核心部分がまさにこの妥協策であるということだ。

なぜなら、関税同盟に留まる限り、イギリスは諸外国との新たな自由貿易協定(FTA)などを結べないからである。

EUという「規制装置」から離れて諸外国とより自由度の高い貿易協定を結ぶことでイギリスはより発展できるという離脱派の主張と相いれないのである。

いずれにせよ、離脱交渉が最終局面で急展開した経緯は以上である。そして、合意案では移行期間を最大2022年末まで延長できることも取り決めた。

イギリスのメイ首相もEU側もともに痛みとリスクを受け入れ、妥協したのである。

冷静にみれば、離脱交渉の最大の焦点となったアイルランド国境問題はパラドックスに陥っていた。双方が譲歩し難い一方で、交渉を決裂させれば、誰もが避けたい物理的な国境が自動的に復活してしまうというジレンマである。

最も優先順位が高い達成目標を守るためには、双方とも妥協するしか選択肢はなかったのだ。

 

ブレグジットはEUの失敗

25日のブリュセルでのEU首脳会議をテレビ中継で見ながら印象深かったのは、難交渉が妥結した安堵感などは微塵も感じられず、「悲しい時だ。悲劇だ」(ユンケル欧州委員長)、「全員が敗者だ」(ルッテ・オランダ首相)などとEU首脳にイギリスとの離別を惜しむ声が強かったことだ。

EU首脳らは今も、イギリスが何らかの経緯を経て結局はEUに残留することへの一縷の望みを隠さない。

ユンケル委員長は首脳会談後の英BBCのインタビューでイギリスのEUへの貢献について「プラグマティズム(現実主義)を吹き込んだ」と語った。

観念主義的なフランス、ドイツが主導してきた欧州統合プロジェクトに1973年に途中参加したイギリスは、その現実主義でEUの経済発展などに貢献したという意味である。

様々な課題に直面するEUにとって、域内2位の経済規模と最大の軍事力、卓越した外交力と世界への存在感を持つイギリスが離脱することは、大きな不安だろう。

露骨なパワーポリティクスが益々勢いを増す国際情勢の下で、「ポスト・ブレグジット」のEUが世界にどれほどの求心力を持ち得るのか。

イギリスがEUを去ることは明らかにEUの失敗である。