賃貸物件はこんなにチープ
賃貸住宅は安普請である。ひらたく言えば、チープということだ。

東京の木造アパートの空室率を築年数ごとに見ていくと、築25年以上では25%が空室となっている。
アパート建設を勧めるのは銀行や建築会社、そして建築後一定期間まで一括で賃貸アパート経営を請け負うサブリース方式をとる管理会社だ。地主がそれを受け入れてアパートを建てるのは、相続税と固定資産税を減らすためである。
更地は固定資産税が高いが、アパートを建てると税率が下がる。また賃貸住宅は更地に比べ、相続税評価額が極端に低い。
このため、とりわけ2015年1月の相続税増税以降、節税目的の賃貸アパート建設が急増する「アパマンブーム」が発生し、金融庁が「市場を無視してアパート建築が行われている」と警鐘を鳴らす事態になった。
アパートは新築のうちは入居者が入るが、建物が古くなると入居率が下がって利益が出なくなる。管理会社はサブリースの契約期間が過ぎるとアパート運営から手を引き、地主に物件を返してしまう。
地主は自分では面倒な賃貸経営などまじめにやる気はないので、ろくにメンテナンスもせずに放置する。物件が古くなると、再投資する代わりに賃料を下げる。それでも人が入らなくなると、募集もかけずに放置する。あとは相続までそのままだ。誰も住む人がいなくなってしまっても、解体も建て替えもしない。
地主からすればそこにアパートが建っていること自体が重要なのである。解体すれば更地になって税金が6倍に跳ね上がるし、相続税も上がる。建て替えしたら振り出しに戻ってローン返済に追われる。
私は日本の民間賃貸住宅の90%以上が、地主の税金対策のために建てられた物件と見ている。そうした物件の住心地がいいか悪いか、改めて質問する必要もないだろう。
自分で住む部屋のエアコンは最新の上位クラスにしたとしても、他人に貸す部屋のエアコンは最低スペックの一番安いものを選ぶ地主は多い。
実際、着工統計のデータから算出すると、賃貸と持ち家では平均して建築単価が14%違う。
建築費が安いとは、つまり安普請だということだ。実際に住み比べてみると建築単価の14%の違い以上の格差を感じるだろう。
同じマンションという名前はついていても、賃貸物件は分譲マンションに比べて壁が薄かったり、設備が簡素だったり、構造強度が最低レベルだったりする。施工の水準からして違うのだ。
賃貸住宅のオーナーからすれば、賃貸で利益を出すためには、家賃を周辺相場に合わせた上で、それで利益が出るレベルまでコストを抑えなければならない。そのため建築の過程で予算に合わせていろいろな妥協をしている。
ある大手賃貸住宅会社の物件は、真偽は不明だが「あまりに壁が薄いので、エアコンのリモコンを操作すると、その部屋だけでなく隣の部屋のエアコンまで作動してしまう」物件があるという噂があるほどだ。
壁だけでなく窓のサッシのグレードも低く、足音が響かないよう二重床にするといった配慮もない。遮音性が悪いので騒音問題が起きやすい。友達も恋人も気軽に呼べない。
気密性、断熱性も低く、エアコンも備え付けのものは必要最低限の安価な機種である。快適さが違うし省エネ仕様になっていないので光熱費も高くつく。
賃貸では自分で勝手にエアコンを交換することもできない。性能の低さにがまんできなくて交換した場合も、引越し先に持ってはいけないので費用は自己負担になる。家主に買い取りを要求したいところだが、家主側にそれに応じる義務はない。